SecHack365 2025 / 6th Event Week / 成果発表会Report 6th
Event Week / Presentation
第6回イベント / 成果発表会(2026年2月27日・28日)
一年間を走りきったトレーニーたちの「作品」を発表、ここを起点にさらに社会へ
長いようで短いSecHack365 2025の一年間が、いよいよゴールを迎えました
2025年6月からスタートし、オンラインやオフラインのイベントに加え、イベントとイベントの間にはコースやゼミごとの定例会やミーティングを重ねながら、トレーニーたちはそれぞれ興味のあること、課題だと感じていることを言葉にし、形にして示し、フィードバックを得てはブラッシュアップしてきました。
こうして作り上げた作品は1月末の第5回オンラインイベントで発表されましたが、あくまで他のトレーニーやトレーナーなどSecHack365の「関係者」向けの場でした。これに対し2026年2月28日の「成果発表会」では、小中学生も含めた一般来場者に自分たちの「作品」を披露し、対話を通してさらに新たな知見を得ることができました。
第6回オフラインイベント @AKIHABARA UDX Gallery
身に付けた力を生かし、修了後に何をすべきかのヒントを提供
成果発表会の前日である2月27日には、一年間で身に付けてきた知見や物事に取り組む姿勢を生かし、この先どのように活動していくかのヒントを示す第6回オフラインイベントが行われました。
冒頭、横山輝明トレーナーは、「イベントの終了時には必ず、『次回に向けて何をすべきか』を検討する時間を設けてきました。今回は、皆さんがSecHack365の修了生という立場で『作って、見せる』という力を使って何をやっていくかを考え、今後につなげる機会にしてください」と呼び掛け、この先の長い人生を見据えた一日にしてほしいと呼び掛けました。
さらに、SecHack365の一年間をともにした仲間との絆を大切に、「修了生コミュニティ」の一員として、日本人工知能オリンピック(JOAI)をはじめ、さまざまな場にチャレンジしていってほしいという励ましも、園田道夫トレーナーから贈られました。
第6回オフラインイベントでは、久しぶりの対面形式による最後のコースワークも行われました。トレーナーたちは「一時は進捗がどうなることかと思ったけれどよく持ち直し、走り抜いた」とトレーニーの努力を讃え、明日の発表に備えて最後のアドバイスを行いました。
学習駆動コースでは恒例の散歩タイムを実施し、秋葉原の電気街を散策しました。賑わう街を抜け、マイコンやさまざまなパーツを扱う店舗まで足を運び、気になる部品を購入したトレーニーたちでしたが、実は、最後まで熱心に物色し続けていたのは坂井弘亮トレーナーだったりします。
激論を経て選ばれた6名の優秀修了生
第5回オンラインイベントでは、トレーニー全員が作り上げてきた作品について発表を行いました。その内容を踏まえて6名の「優秀修了生」が選ばれ、成果発表会で発表を行いました。
優秀修了生の選定に当たっては、トレーナーの間で激論が交わされたそうです。「皆さんから全くベクトルの異なるもの、こだわるポイントが異なるものがたくさん出てきました。たとえるならば、カレーとラーメンのどちらがおいしいのか、順位の付けられないものから決めるようなものでした」(横山トレーナー)
こうした「うれしい苦労」は例年のことだといいます。今年は特に「自分のやりたいことをやりきる、という内向きの取り組みだけでなく、それをどのように世の中にかみ合わせ、インパクトを与えていくかという社会実装の視点を意識し、選定を進めました」(横山トレーナー)ということです。
井上博之トレーナーも「今年はコンセプトレベルに留まらず、実際にものを作り上げるところまで達成した作品が多く、非常にレベルが高かったです」とコメントしていました。
その意味で優秀修了生はトレーニーの代表ですが、それ以外の作品が劣っているわけでは決してありません。「ぜひ成果発表会で展示や交流を楽しみ、外の人に『自分はこんなことをしている人間です』と自分の色を紹介してほしいと思います」(横山トレーナー)。それが、この先、周囲から期待を寄せられ、声を掛けられる一歩になることになると強調し、いい発表会にしていこうと呼び掛けました。
法律だけでなく、社会からの信頼を築く「倫理」も大切に
身近な法律の話に始まり、不正アクセスやマルウェア、そして著作権に関するさまざまな法律について北條孝佳トレーナーが解説してきた「法律と倫理」の最終回の講義では、テーマの両輪の一つである「倫理」が取り上げられました。
法律に反すれば何らかの罰則を受けますが、倫理に反する行いをしたからといって罰せられることはありません。しかし「社会からの信頼」という重要な財産を失うことになります。
北條トレーナーは、技術者として、あるいは組織の一員として、「Code of Conduct」と呼ばれる行動規範や企業の倫理、セキュリティポリシーといった文書を、それらが定められた背景も含めて理解し、それに沿って行動したり判断することが求められるとしました。「特に事故や事案が発生した際には、迅速で誠実な対応が求められます。法的責任だけでなく、モラル面も意識することが非常に重要です」(北條トレーナー)
倫理にはさまざまな側面がありますが、中でも北條トレーナーが期待しているのが「安全」です。「安全の優先順位は常に最上位に置くべきです。新機能よりも安全性、速度よりも信頼性、利益より公益といった考え方ができることが開発者に求められる姿勢だと思います」(北條トレーナー)。さらに、過失や判断ミスと言った不都合な事実を隠さない文化も重要だとしました。
そして、参考になる考え方として、「正義の味方であること」をはじめとした、日本シーサート協議会(NCA)が掲げる5つの行動指針を紹介しました。
SecHack365では、セキュリティという観点でのもの作りをする方法を一年掛けて学び、実践してきました。セキュリティに関するツールは世の中の役に立ちますが、一方で、不注意な設計や機能があれば、利用者を危険にさらしかねません。だからこそ「倫理なき技術者ではなく、倫理ある技術者になってほしい」と北條トレーナーは述べ、自分たちの力を社会的にプラスになる方向に生かしてほしいとよびかけました。
キャリアは予定調和ではなく、楽しみながらチャンスをつかんで築くもの
習慣化セッションでは、計画的偶発性理論をはじめ、さまざまな切り口から自分たちの成長のベクトルを高めるための方法論を佳山こうせつトレーナーが紹介してきました。
最後の講義「習慣化セッション、おかわり」では、セキュリティ業界の最前線で活躍している2人の専門家を「ロールモデル」として招き、どのようにキャリアを築いてきたかを語ってもらいました。
蔵本雄一さんは日本IBMでシニアパートナーとしてセキュリティビジネスの責任者を務めると同時に、CISOを兼任しています。国内ベンダーから海外ベンダーを経て自動車のサイバーセキュリティ分野のスタートアップ企業の立ち上げを担った後、現職に至っています。
もう一人の楠正憲さん楠正憲さんは、学生の頃から秋葉原に出入りし、アルバイトで開発やリサーチに携わりながら、さまざまな縁を通じて外資系ベンダーや国内大手Web企業で経験を積んできました。その知見を買われてデジタル庁統括官を務め、マイナポータルや情報提供ネットワークシステムの構築に携わってきました。
図らずも同い年で、インターネット黎明期にキャリアをスタートした3人ですが、共通するのは、最初から「今の姿」をイメージしてキャリアを積んできたわけではないことです。そもそも10年前、20年前には、サイバーセキュリティやデジタル化を担う仕事自体が存在せず、キャリアを思い描くどころではありません。
ミュージシャンを目指し「今頃は東京ドームでライブをしているはずだった(笑)」という蔵本さんですが、「5年後に何が起こるかは分からないけれど、何かチャンスが来たときにつかめるための準備をしておくことが大切ではないでしょうか」と述べました。たとえば、セキュリティという軸が一つあるならば、それに加えて英語や法律、経営など、何らかの「かけ算」できる要素を身につけて備えておくことが、次のステップにつながると言います。
楠さんも同意しつつ、変に自分にレッテルを貼ることなく、「今楽しいと思えることに没頭することが大切では」とアドバイスしました。
また、楠さんのキャリアの節目においては、世話になった恩人からの言葉に背中を押されたことがあったそうです。このエピソードを踏まえて佳山トレーナーは「自分の周りに相談できる友人の輪があると、プラスになるものをつかみやすくなるかもしれません」と述べました。
対談では、あまり表には出せないような過去の失敗談や学生の頃の意外な話も飛び出しました。
「守る」という意味では何千年も続いてきたセキュリティという仕事ですが、今や裾野が広がり、さまざまな役割が期待されるようになっています。やはり「楽観的に、自分たちができること、興味があること、楽しいと思うことをひたすら楽しんでいくことが大事です」(蔵本さん)。
楠さんはさらに「チャレンジはうまくいかないことが付き物です。あまり失敗を恐れることなく、持ち場で踏みとどまり、きちっと自分のやれることをやりきることが後につながると思います」とトレーニーたちにエールを送りました。
培った力を生かし、フォローに頼らず自走し続けている修了生
10年後、20年後という遠い未来ではなくても、SecHack365の修了後から着実にアウトプットを出し続けている修了生は少なくありません。そんな修了生の代表として、大井智弘さん(2024年度 学習駆動コース修了生)と渡邉雄大さん(2024年度 学習駆動コース修了生)が修了生講演を行いました。
大井さんは大阪公立大学工学部情報工学科の四年生として勉学に励みながら、公立大学法人大阪情報基盤課でアルバイトをして大学アプリの開発に携わったり、関西テック・クリエイター・チャレンジやAKATSUKIプロジェクトといったコミュニティ活動に参画するなど、忙しい日々を送っています。
2025年度の一年だけを振り返っても、SecHack365の成果である「SSH with Passkeys」をInterop TokyoのNICTブースで紹介したり、技術書典やコミケに足を運んだり、総務省CTFに参加したり、SecHack365 Returnsで旧交を温めたりと、アクティブに活動してきました。いよいよ卒論も書き終え、来春には大学院に進学予定です。
特に大井さんがいろいろ考えるきっかけになったのが、履修登録システムやデジタル学生証、教室予約などさまざまな機能を盛り込んだ大学アプリの開発です。「単にシラバス情報の紙を電子に置き換えるのではなく、スマホの画面で見やすいように開発しましたが、設計書や会議資料、過去の経緯を確認して仕様書を書き、開発する経験を積むことで、どうすれば満足度の高いアプリケーションを作れるのかという課題について考えていきたいと思っています」(大井さん)
Nintendo Switchを用いたユニークな環境でプレゼンテーションを行った渡邉さんも、Interop Tokyoで物理パスワードマネージャー「SecPassBox」を紹介して来場者と意見を交わしたり、SecHack365 Returnsに参加したほか、SecHack365で学んだ低レイヤの知識を生かしながらサークル活動にもいそしみ、ロケットの打ち上げやロボコンに向けてプログラムを組んだりしています。また、個人の開発活動として、準天頂衛星システム「みちびき」のデータをグラフとして表示するシステム作りも進めています。
そんな渡邉さんが意識しているのは、「何もしない期間をなくそう」ということです。
「振り返ってみると、SecHack365では小さく締め切りが設けられていたり、定例会があったりで一緒に進める人に囲まれ、きめ細かくフォローしてもらえました。今はすべて自分の意思で進める必要があります」(渡邉さん)。だからこそ、さまざまなイベントやコンテストに積極的に参加し、締め切り駆動を自らに課しながら開発を進め、形にし、フィードバックを得ながら改善していくという、習慣化で身につけたサイクルを今も続けているそうです。
成果発表会 @アキバ・スクエア
発メイカー、革メイカーになり得るポテンシャルを秘めた36名のトレーニー
2月28日、いよいよ成果発表会の日を迎えました。前夜は秋葉原に宿泊したトレーニーたちは午前中に会場に移動し、プリントアウトされたポスターや配付資料を受け取って入念に自分のブースをセッティングしていきました。
中には、川越謙宏さん(学習駆動コース 社会実装ゼミ)のように前日の秋葉原散策で購入したガジェットで飾り付けるトレーニーもおり、準備万端整えて一般来場者を迎えました。
冒頭には総務大臣政務官の向山淳氏がビデオメッセージを寄せ、「この一年間作品作りに打ち込み、試行錯誤を経て完成された経験と、同じ志を持ち、その過程をともにした仲間たちの存在は、皆様一人一人にとって、何物にも代えがたい貴重なものです」と評価しました。そして、サイバー攻撃がますます高度化・巧妙化し、セキュリティ人材の育成が喫緊の課題となる中、若いトレーニーたちがSecHack365を通じてサイバーセキュリティについて深く学んだ意義を評価し、「ぜひ、この学びや経験を糧に、さらに大きな世界へ羽ばたいていってほしい」と期待を述べました。
続けて横山トレーナーが、いつもの「横山節」を交えながら来賓や来場者に向けSecHack365の特徴について説明しました。
SecHack365は、NICTが進めるサイバーセキュリティ人材育成の取り組みの一環として、9年にわたり実施されてきました。
サイバー脅威に直接的に立ち向かうだけでなく、「そもそもセキュリティの問題が起きないようにするにはどうしたらいいか、どのように技術的に防いでいくかという観点から、技術をレバレッジに使ってセキュリティに貢献できる若手人材を育成していくことがポイントです」(横山トレーナー)。その意味で、AIはもちろん、基盤となるOSやネットワーク、あるいは人や文化といった多様な切り口とサイバーセキュリティと掛け合わせての技術創出・クリエイティビティこそがSecHack365の特質です。
同時に、一年を掛けてトレーナーやアシスタント、ほかのトレーニーたちとコミュニケーションを取りながら作品を作り上げ、何かを生み出す力を身に付けてきたトレーニー、つまり「人」にもぜひ注目し、セキュリティを軸にした多様な作品を見るだけでなく、対話を通して感想や意見といったフィードバックを直接寄せてほしいと呼び掛けました。
「今年巣立つ36名のセキュリティイノベーターは、自分たちでセキュリティ技術を生み出し、世の中を変えていける可能性を秘めています。技術のメーカー、つまり『発メイカー』であり、『革メイカー』になってくれると期待しています」(横山トレーナー)
会場には、SecHack365への入り口として企画され、15歳以下を対象に、30年後の未来に自分が使いたい道具のアイデアを募集した「セックハッコーアイデアコンクール」の入賞者やSecHack365の修了生のほか、セキュリティ業界で活躍するエンジニアや企業関係者も訪れ、ブースを見て回っては説明を受け、思い思いに質問を交わしていました。
のど飴などの助けも得ながら、背景も技術的知識もまちまちの来場者に説明し、さまざまな角度からの意見を受けることで、トレーニーたちも有意義な半日を過ごすことができました。そして、この一年で、トレーニー自身も自らの成長に手応えを感じたようです。
守田向輝さん(研究駆動コース)は「9ヶ月はあっという間でしたが、この期間で多くの知識を身に付け、課題への向き合い方が分かってきました」と述べていました。また、臼井悠人さん(研究駆動コース)は「毎週のミーティングは大変でしたが、締め切り、それから他の人たちからの意見を受け、自分の意見をどのようにいい具合に曲げていくかが体感できました」と語りました。「人前で話すのは少し苦手でしたが、場数をこなすことでできるようになってきました」と振り返ったのは古澤匠さん(開発駆動コース 仲山ゼミ)です。
そんなトレーニーを、時にはトレーナー以上にきめ細かく後押ししてきたのがアシスタントたちです。全体アシスタントの工藤信一朗さんは「トレーニーのパッションを尊重しつつ、学生のうちにできることをやってほしいという思いでサポートしてきました」と述べています。社会人として働く今だからこそ、SecHack365の一年間は「実は貴重な時間だったと感じています」ということです。
作品だけでなく一人一人の過ごし方にも拍手、「自信を持ってこれからを」
こうして成果発表会は終了し、トレーニーを代表し、最年少の松浦睦空さんが園田トレーナーから修了証を授与されました。松浦さんは「この一年間でRustと分散システムの良さ、そして締切駆動開発のエッセンスを学びました」とコメントし、あらためてトレーナーやアシスタント、一緒に駆け抜けたトレーニーに感謝を述べていました。
最後にNICTの徳田英秀幸理事⻑が挨拶を述べました。修了生に発行されるカードには、熱い思いを込め「Be a trailblazer with a vision, mission, passion and dream. ビジョン、使命、情熱、そして夢を持った先駆者たらんと」というメッセージが記されています。
優秀修了生によるプレゼンテーションの合間を縫ってブースを巡り、トレーニーと熱心に質疑を交わしていた徳田理事長は、「皆さんの問題意識も素晴らしいのですが、何が一番素晴らしいかというと、若い皆さんの持つパッションです」と振り返り、これからもそれぞれの持つパッションとドリームを忘れずに歩み続けてほしいと激励しました。
同時に、一年間を通して得た技術や知識だけでなく、ともに過ごした仲間たちやトレーナーとのつながりも貴重な財産になるとし、今後の活躍に期待を寄せて言葉を結びました。
個性豊かなトレーニーたちと一年間をともにしていると、それぞれの良さやユニークさが見えてきます。そんなトレーニーの姿をしっかり認めた「トレーナー賞」も贈られました。
表現駆動コースからは永井美輝さん(表現駆動コース)にトレーナー賞が贈られ、今岡トレーナーは「文化や歴史、民俗学とテクノロジーを融合させる頭の柔らかさに、風穴を開けられた思いがしました」と、濱本遙香さん(思索駆動コース)に「いつかトートバッグを持ってきたら似顔絵を描く」と約束していました。
また花田トレーナーは、年間を通じた活動に加え、他コースと積極的に交流する「スパイ活動」の積極性を評価し、松浦睦空さん(開発駆動コース 仲山ゼミ)と番匠夏希さん(学習駆動コース 坂井ゼミ)を表彰し、今後もいろいろな社会展開を図ってほしいと述べました。
坂井トレーナーは、「もの作りが好きで、一年間いつも楽しそうに活動していた」という観点で、岩佐知虎さん(学習駆動コース 今岡ゼミ)、川端薫さん(開発駆動コース 仲山ゼミ)、恵祖茂寿歩さん(学習駆動コース 坂井ゼミ)の三人に本を贈呈しました。「坂井トレーナーには『何をしてもいいじゃん』というアドバイスをもらい、とても感謝しています」(恵祖茂さん)
井上トレーナーは、「マイコンをあげたら喜びそうな人」として、秋葉原の自動販売機でRISC-Vベースのマイコンを入手し、岩佐知虎さんと番匠夏希さん(学習駆動コース 坂井ゼミ)に贈呈していました。「マイコンなんていくらあってもいいですよね、うれしいです」(岩佐さん)
そして大トリには佳山トレーナーが習慣化表彰を行い、毎月更新を重ねてきた松浦さんと山下真凜さん(思索駆動コース)に「最優秀習慣賞」として、誰もがうらやむ(?)「蒲田Tシャツ」を贈呈しました。
最後の最後に横山トレーナーは、「ここまで走りきった自分に、ぜひ自信を持ってください」とトレーニーをねぎらいました。
「皆さんにはこの一年間で、『自分はこんなことができる、こんな人間だ』といういろいろな色が付きました。これからはその経験と実績を元に、面白いことや興味があることが回りから寄ってくるでしょう。その期待にポジティブに応え、自分の力を社会に届けてほしいと思います」(横山トレーナー)
そして、もし悩むこと、判断が付かないことに遭遇すれば、遠慮なく周りのトレーニーやトレーナーといった仲間に相談し、明るい未来に向かってほしいと呼び掛けました。「今日の自分が皆さんのゴールではありません。いやいや、まだまだ、もっと良くしていくんだと、今の自分を超え、これから先も頑張っていってください」(横山トレーナー)
2025年度で9年目を迎えたSecHack365は、これまでにのべ300名以上の修了生を輩出してきました。トレーニーの多くは大学生や大学院生ですが、高校生や高専生、さらには小数ながら中学生も参加し、「技術」という共通の関心事を介して、年齢に関係なく学び、議論し、楽しみながら一年かけたハッカソンに取り組んで「仲間」になってきました。
そんな修了生たちは、SecHack365の修了後もさまざまな活動に参加しています。毎年開催される同窓会「SecHack365 Returns」のほか、学会やさまざまなカンファレンス、コミュニティイベントに参加したり、中にはともに起業 創業するケースもあるほどです。
早速成果発表会の翌日に、国内最大のCTF大会に一緒に足を運び、参加していたトレーニーの姿もありました。巣立っていったトレーニーたちの活躍にますます期待したいところです。
優秀修了生のプロダクト
最後に、優秀修了生に選ばれた6名の作品を紹介します。
情報空間における認知の自律性を支援するブラウザ拡張機能 ─ AriadKnot ─
首藤愛美さんは、ソーシャルネットワークが高度化し、アルゴリズムによって選ばれた情報が提供されるようになった今、「情報との関わり方が、『自分で取りに行く』アクションから、『見せられる』という受動的な体験に変わってきているのが実情ではないか」という問題意識を抱き、自分が触れている情報が自分で選べているものかどうかを把握できるようにする支援ツールとして「AriadKnot」の開発に取り組みました。
AriadKnotは、ブラウザを介してSNSを閲覧した際のポストの構造的な特徴とユーザーの行動シグナルを分析することで、無意識のうちに形成される認知特性ーー首藤さん言うところの「認知の土壌」を可視化するブラウザ拡張機能です。コンテンツのフィルタリングなどによって情報空間の方を操作するのではなく、「今、自分はどのように情報に触れているのか」を可視化することで、「あ、自分の認知が狭まっているな」「認知が利用されかけているな」と自ら気づけるようにすることを狙った、ユニークな作品です。
IT業界に就職し、セキュリティ担当として働く傍らSecHack365に参加した首藤さんですが、来年度は、元々のバックグラウンドである法律の分野と情報系の分野を掛け合わせて研究すべく大学院に進学して思索を深めていくそうです。
Cyrius ― Linux 非依存にコンテナをネイティブ実行する専用 OS ―
コンテナが好き、車輪の再発明が好きで、試行錯誤を重ねながらコンテナをネイティブ実行できるOS「Cyrius」を開発した川崎さん。詳細は前回のイベントレポートに譲りますが、なぜわざわざ車輪の再発明をするのかを尋ねてみたところ、「新しい知識をブラックボックスのまま使い、その上に積み重ねるのは嫌だから」だそうです。
「100%理解してから先に進みたいんです。だから、OSもコンパイラもコンテナランタイムもインタープリタも、新しい知識を知ったらまず一通り自分で作ってみるという意味で、車輪の再発明が好きです」(川崎さん)
今後はさらに、DockerやKubernetesのインテグレーションなど機能拡充を進め、ゆくゆくはどこかの場でCyriusをテーマに登壇発表を行いたいと考えているそうです。
TinyDec Project〜デコンパイル技術の脱ブラックボックス化に向けて〜
齊藤遼太さんも、「新しい技術や知識をブラックボックス化したくない」という思いを抱き、「TinyDecプロジェクト」としてデコンパイラ技術の実装に取り組み、そこで得られた知見を同人誌としてまとめました。
デコンパイラは、マルウェア解析作業で必要となるソフトウェアのリバースエンジニアリングを効率的に行うためのツールです。しかし、デコンパイラ技術の技術者・研究者が少ないことが課題だと考え、独自のデコンパイラを開発し、その知見をまとめて資料や教材となる同人誌の作成を進めてきました。
技術書典19のブースでは書籍が完売し、次回の技術書典にも出展予定です。いずれはデコンパイラ技術に関する技術書を商業出版し、一連の活動を通して「技術を脱ブラックボックス化し、今よりも面白い研究、突飛な研究をする人が増えてほしいと思います」と意欲を語っていました。
Hito-Fude: 創作に集中できる世界へ。制作過程ログを改ざん困難な形で記録し、第三者が証明書で検証可能にする
表現駆動コースの5名のグループでは、生成AIによる画像生成が一般化したことを踏まえ、イラストレーターが自身の手でイラストを描いたことを、電子証明書などの仕組みを用いて証明できるインフラ「Hito-Fude」を開発しました。「この絵はAIが描いたのではないか」といった疑いを晴らし、受け手が純粋に創作を楽しみ、絵を描く側もいらぬ疑いを掛けられないような土台を作りました。
これまでの発表で名前を表に出していませんでしたが、「やはり名前があった方がわかりやすいだろうと考え、以前、『人が描いたこと』『一つ一つをハッシュチェーンに紐付けていること』という意味を込めて名付けたHito-Fudeという名前を出すことにしました」だそうです。
FORMIX: あらゆる分散ストレージの上で、ユーザー主権のまま秘密鍵を管理・共有できる、ベンダーフリーかつ検証可能な秘密鍵管理プロトコル
樅山さんが開発した「FORMIX」は、ベンダーフリーで、しかも検証可能な秘密鍵の管理プロトコルです。
データを安全に共有するには、何らかの秘密鍵でデータを暗号化し、さらにその暗号鍵もベンダーに委託管理するのが当たり前の方法だととらえられてきました。樅山さんは、この「常識」には、ベンダー自身が侵害されて漏洩したり、ベンダーによる検閲が可能といった構造的なリスクがあると考え、ベンダーを介することなくクライアントサイドで分散型プロトコルを用い、安全にデータをやりとりする方法としてFORMIXを構想し、秘密分散法などの暗号技術を用いて形にしました。
「秘密鍵の自己管理と暗号文の自己管理の両方を自己主権的に行うことによって、データの保存とアクセス制御を分散型で、しかも一気通貫のUXで実現します」(樅山さん)
すでにさまざまな対外発表やハッカソンへの参加も行っており、イーサリアム考案者の一人であるヴィタリック・ブテリン氏とディスカッションする機会も得た樅山さん。こういったフィードバックを活用し、引き続き、FORMIXを活用した分散型通信サービスの開発などに取り組んでいくそうです。
Hisame: RISC-V最高特権ファームウェアに対するファジングフレームワーク
秋葉原散策でも人気の的となっていたのがRISC-V回りのパーツでした。西坂さんは、そんなRISC-VのファームウェアであるSBIの脆弱性を、ファジングと呼ばれる手法で自動的・効率的に探索する「Hisame」を開発しました。
残念ながら動画での発表となりましたが、前提としてこれまた独自に開発したRISC-Vハイパーバイザーの説明を交えながら、最高特権であるMモードで実行されるSBIファームウェアのバグを探索し、修正することがなぜ重要なのかの説明に始まり、実効性を持ち、また効率的かつ高速に脆弱性探索を実現するためにどのようなポイントに留意して開発を行ったかを紹介し、デモンストレーションを交えてHisameの動作について説明しました。
この一年間で「低レイヤー技術、特にハイパーバイザーについて学びました」という西坂さん。今後は、Hisameの機能をさらに拡充し、RISC-Vの安全性向上に貢献できるようになりたいと意欲を語っています。



