SecHack365 Returns 2025Report Returns 2025
SecHack365 Returns 2025
レポート(2025年12月6日)
年度を超えた修了生の連携からまた新たな何かが生まれる場に
(取材・ライター 高橋睦美)
SecHack365は、セキュリティのエッセンスを取り入れたハッカソンです。トレーナーやアシスタント、周囲のトレーニーとコミュニケーションしながら一年を過ごすことで、トレーニーは自分の作品を作り上げるだけでなく、「作って、見せて、その意見を元にさらに改善する」という習慣を身に付けていきました。
この「財産」を生かし、学習や研究で、アルバイトや卒業後の職場で、あるいは余暇で自主的に何かに取り組んでいる修了生は少なくありません。
SecHack365の「同窓会」とも言える「SecHack365 Returns」は、そんな修了生が久しぶりに一堂に会し、現時点での自分の取り組みを紹介し合う場です。同期はもちろん、年度の異なる修了生が会話を交わし、「今どうしてるの?」「単位がヤバいかも」「自分は卒業してこんなことしてます」と近況を報告し合い、それぞれの今一番の関心事や成果を見せ合います。
2025年12月6日に行われた「SecHack365 Returns 2025」は、東京・日本橋のNICT日本橋イノベーションセンターを会場にして、半日にわたって行われました。修了生69名の他、招待見学者42名が集まり、思い思いに楽しみました。
SecHack365後のそれぞれの成果を披露し、久しぶりの親交を深める半日に
会場には複数の展示ブースが設けられたほか、3つに分かれたプレゼンテーションコーナーが設けられ、縁日のような、あるいは文化祭のような雰囲気となりました。
展示ブースでは、SecHack365の後も引き続きもの作りに取り組む修了生が自分の作品を紹介しました。たとえば渡邉雄大さん(2024年度修了⽣)は「産業用ネットワークで早押しボタン作ってみた」と題し、産業用システムで採用されているネットワーク規格「EtherCAT」の評価ボードを入手し、早押しボタンを作成して紹介しました。高速かつ低遅延という特徴を持つEtherCATに着目したのは「大学ロボコンで必要性に迫られて」という理由からだそうです。
また、トレーナーの紹介による有志の企業・団体も参加してそれぞれの活動を紹介しました。「Security BSides」の一環として毎年東京で開催される国際的なセキュリティカンファレンス「BSides Tokyo」のブースではスカベンジャーハント――いわば「宝探し」ゲームが用意され、参加者が「難しい!」と頭を抱えながら楽しんでいました。
さらにチラシやポスター展示、そしてSecHack365 Returnsの恒例企画となりつつある、ガジェットや書籍などを交換できる「ミニフリマ」などが展開されました。また、昨今のシールブームを反映してか、各ブースでシールを集めて回る「繋がりシールラリー」が企画されたこともポイントです。
参加者らはブースで話し込んだり、アルミホイルの帽子を作成する「Tin Foil Hat Contest」で作った帽子をかぶって歩き回ったり、かと思えばフリースペースで何か作業に没頭したりと、SecHack365のイベント会と同じように、思い思いに時を過ごしていました。
大人げなく参加したトレーナーも含め、皆が対等に楽しんだ主催者企画
SecHack365 Returnsは、修了生が楽しめる場を修了生自身の手で企画し、実施していくことも特徴です。今回は、羽持涼花さん(2024年度修了生)、高垣優さん(2024年度修了生)、松田真侑さん(2024年度修了生)、福田海優さん(2023年度修了生)、堀田竜誠さん(2021年度修了生)が企画・運営を進めていきました。
そうした企画の一つが、「昼なのにナイトチャレンジ」です。表現駆動コースが毎年イベントの際に実施し、トレーニーたちが夜を徹して取り組んでいるハッカソン「ナイトチャレンジ」をSecHack365 Returnsでも実施しました。
お題は「せんだみつおゲーム」の魔改造です。世代的にせんだみつおさんも「ナハナハ」というギャグも知らない修了生が多数派ですが、ゲームのルールを元にカメラを用いて指の動きを検知する仕組みを作り込んだり、異なる複数のAIエージェントを組み合わせてゲームをさせたりと、一週間という限られた準備時間でユニークな作品を作成していました。また坂井トレーナーは、「元はと言えば娘のために作成した」という独自言語「NLL」でせんだみつおゲームを実装しました。やっぱり自作はいいですね。
もう一つの企画は、今年初めてのチャレンジとなる「SORA2/生成AI動画コンテスト」です。OpenAIが3月まで提供していた動画生成AI「SORA2」を用い、1分以内であれば「どんなネタに走ってもOK」というルールで「SecHack365参加当時の思い出部門」「セキュリティ芸人を超えよう!セキュリティお笑い部門」「SecHack365の啓発部門」「サイバーセキュリティ部門」という4つのテーマにわけて事前に作品を募集したほか、当日応募コーナーも用意されました。
修了生も積極的に投稿して表彰されましたが、徳島から会場への移動中にプロンプトインジェクションも駆使しながら10本以上の動画を生成し竹迫トレーナーが、大人げなく(?)当日応募枠すべての賞をかっさらっていったことが印象的でした。
ハードウェアからエンジニアとしての生き方まで、多様なテーマのLTと講演
会場には3つのプレゼンテーションコーナーが設けられました。1人当たり5分、あるいは15分でのライトニングトーク大会から、1つのテーマをじっくり掘り下げたワークショップまで、さまざまな発表が行われました。内容も、ハードウェアやガジェットから暗号、セキュリティ業界での働き方に至るまで、バラエティ豊かなものだったことが印象的です。また、各企画や発表の合間には、SecHack365での一年間と同じように、時にトレーナーも交えながらコミュニケーションを交わす姿も見られました。
たとえば5分間のライトニングコーナーでは、大井智弘さん(2024年度修了生)が「英語配列キーボードってぶっちゃけどうなの?彼女はいるの?1ヵ月間使ってみました!」と題し、一ヶ月ほどUS配列キーボードを使用しての、プログラミングには使いやすいけれど、日本でのパソコン購入の幅が狭まるといったデメリットもあるという率直な感想を述べました。なお大井さんは、ブースでも「Connect RPCを使ったセキュアなスキーマ駆動開発」についてというテーマで発表を行っており、精力的に締め切り駆動開発に取り組んでいました。
また、朝の飛行機で福岡から飛んできて、飛び入りでライトニングトークに参加した村上和馬さん(2022年度修了生)は、推しアニメへの愛をにじませながら、OS自作だけでなく割り込みハンドラの自作に取り組んでいることを報告しました。レポートや学会、そして趣味の合間を縫っての開発だけに苦戦しているそうですが、それがまた楽しそうなことが印象的な発表でした。
15分枠では山田快さん(2024年度修了生)が「深センに行って中国の洗礼を受けた」と題し、今や世界最大の電気街とも言われる深センの訪問記を紹介しました。「身の回りの課題を技術で解決するのが好き」という山田さんは、SecHack365の一年間はもちろん、それ以外の場面でもさまざまなもの作りに取り組んでいます。そこで必要となる部品を非常に安価に調達できるのが海外通販、特に深センのショップで、ニコニコ技術部主催の「Maker Faire Shenzhenツアー」に参加した模様を、写真とともに発表してくれました。
また、今はセキュリティ企業でWeb脆弱性診断などの業務に携わっている石川琉聖さん(2020年度修了生)は、「セキュリティエンジニアになるために、学生時代にやってよかったこと」と題し、社会人になった今だからこそ感じる「お勧め」の行動や習慣をまとめました。本業である学業とインターンへ真剣に取り組むことにはじまり、CTFやバグバウンティ、TryHackMeやHackTheBoxといったセキュリティ系コンテンツへのチャレンジ、そして開発といった経験を、時間のある学生のうちにぜひ経験しておくべきだと呼び掛けました。さらに、学生向け支援策を用意しているものを中心に、「いろんなイベントに参加し、コミュニティで活動していくといいと思います」と石川さんは述べ、そこで得たものをアウトプットすることも勉強になると呼び掛けました。
こうした気楽に参加し、楽しめるライトニングトークとは別に、一つのテーマを60分から90分かけて説明する枠も設けられました。
たとえば石田優希さん(2023年度修了生)は「クイズを通してX.509証明書に詳しくなろう!」というタイトルで、安全なインターネットを支える基盤であるデジタル証明書の仕組みを、クイズ形式で、証明書の有効期間短縮といった最新のトレンドを交えながら解説しました。
また佐田淳史さん(2023年度修了生)は、仲間たちと運営している「セキュリティ若手の会」の活動報告を行いました。セキュリティ分野にはさまざまな勉強会やコミュニティ活動がありますが、この会は、「リアルなところではどうなの?」と解像度を高め、また懇親会の時間を長く取って対話を取るところにこだわっていることが特徴で、SecHack365の修了生を招いての講演なども行ってきました。
「去年のSecHack365 Returnsで『こんな会を立ち上げます』と話してから、今回までの一年間に四回もイベントをやりました」(佐田さん)。参加者の満足度も90%以上と非常に高い水準となっています。これからも、SecHackではなし得ていないもの作りを企画したり、セキュリティエンジニア向けのメディアを立ち上げたりと、積極的に活動していくそうです。
また、有賀菜摘さん(2024年度修了生)による「ゲノムリバースエンジニアリング技術」のセッションは、セキュリティと何かを掛け合わせるSecHack365らしさが存分に発揮された内容でした。IoTの脆弱性を追いかけながら、AIによるゲノム解析に取り組み、またCTF for GIRLSで講師も務める有賀さんは、その知見を生かし、ゲノム解析とロボットなどIoTの解析手法の共通点と相違点を、静的解析、動的解析、表層解析や経路解析といった切り口で整理しました。
「DNA配列をバイナリと考え、酵素をパッチと考えると、パッチを当ててバイナリを書き換えたり追加したりする行為と、酵素を利用してDNA配列を書き換えたり追加したりする行為はだいぶ近いのかなと思います」(有賀さん)。このコアな発表はじわじわとギャラリーを増やし、最後には活発な質疑応答も行われていました。
修了生だけでなくトレーナーも積極的に参加し、コミュニケーションを深めていました。横山輝明トレーナーは「修了生の皆さんとはもう目線が一緒です。セキュリティ業界や日本のため、社会のためにどうしていくべきかをフラットに議論できる仲間になっているんだということを、今日、あらためて感じました」と述べています。
SecHack365をきっかけにしたつながりを通して一人ではなし得ない課題解決を
SecHack365は9年間継続し、これまで300名以上の修了生を送り出してきました。「SecHack365自体は一年間ですが、その後もこうして付き合いが続き、異なる年度の修了生同士でも仲良くなってくれています。これだけ仲間が増え、しかも僕らの手を離れた後に自律的に成果を挙げていることをうれしく思っています」(横山輝明トレーナー)
NICTの矢野博之理事(当時)も「今の社会課題を解決するには、一人の研究者、一つのチームだけでできることは限られており、さまざまな人や組織と連携しなければ実現できません」と述べ、SecHack365 Returnsという場を、年度を超えた修了生の連携を生み出す機会として活用してほしいと呼び掛けました。
現に、SecHack365本体から佐田さんの「セキュリティ若手の会」のような新たな活動も生まれています。横山トレーナーによると、他にも、ネットワーク基盤に興味を持つメンバーによる「ネットワークを囲む会」や、低レイヤー愛好家によるオンラインイベントなど、新たな企画が進んでいるそうです。
SecHack365という場をきっかけにして共通の興味を持つ人たちがコミュニケーションを深め、さらには外部の専門家、大御所と呼ばれる専門家ともつながっていくことで、「一足す一が二や三ではなくて、十になる」(矢野理事)ような効果も期待できるでしょう。
SecHack365は2026年度に10周年を迎えます。もの作りを通して自分の好きなこと、得意なことを磨き、コミュニケーションし、伝えることで、今度は周囲から頼られるようになり、その連携を通してまた新たな化学反応が生まれていく――そんな循環の輪が、少しずつですが確実に広がっています。







