SecHack365 2024 / 4th Event WeekReport 4th Event Week
第4回イベント(2024年11月15日~17日)
万博開催間近の大阪で開催
1日目
オープニング・開会の挨拶
オープニングといえば、すっかりお馴染みのとなったこのコンビ。NICTのナショナルサイバートレーニングセンター長でもある園田トレーナーと、SecHack365の“総合進行役”的役回りを務める横山トレーナーが登壇です。
これまたいつもの通り、最初は少々強引にウケを求める横山トレーナー。これに続けて園田トレーナーが「第4回ともなれば、今回はバリバリ動くものを披露してくれるはずだから楽しみ」と、トレーニーたちにいきなりのプレッシャーを掛けて来ます。これは前回第3回イベントのクロージングで園田トレーナーが語った、「次回はもっと驚くものを見せてほしい」という言葉を受けたものです。ざわりとするトレーニーたち。さて、この後始まる実際の発表の中身はどうでしょうか。
一方、横山トレーナーは「失敗をうまくコントロールすること」の重要性を説きます。某ファーストフードの標語に掛けて、「はやく・やすく・うまく」というキーワードの共有を強調しました。
物事を進める上で失敗は避けられません。だからこそ、失敗しないように慎重に進めるのではなく、小さな失敗を積み重ねることで、時間やコストのロスを最小限に抑えることができます。また、失敗するごとに、自分の仮説が正しかったのか、一つ一つ検証することもでき、まさにPDCAサイクルを高速で回すことができるのです。最後に横山トレーナーは、今回のポスター発表の成否に関わらず、ここで得られたものをうまく消化し、次回に繋げてほしいと語りました。
“伝わる”と“伝える”の違いを理解する ―― 外部講演(山崎准教授)
オープニングに続いて、1日目最初のプログラムは、ご当地・大阪成蹊大学の山崎哲弘准教授(経営学部経営学科)による、適切なコミュニケーションに関する講演です。こんなふうに、開催地周辺を拠点に活躍する方々から直接お話を伺えるのも、オフラインイベントこその醍醐味と言えます。
イベント前にオンラインで事前講義「コミュニケーション不全にならないための「イライラ」の手放しについて」も実施。オンとオフ2回の講義になります。
今回は日常生活で発生するディスコミュニケーションを防ぐにはどうすれば良いのかが、講演のメインテーマです。冒頭にはアイスブレイク(詳しくは昨年度のレポートを参照)を交え、まずは「伝えることの難しさ」を体感していきます。
山崎准教授によると、日本人は世界的に見て言語依存度が低く、「あれ取って」や「あの時は〜」といった曖昧な表現でもある程度伝わってしまうといいます。しかし、それはあくまで共通認識を持っている者同士の間でのみ可能なことです。共通認識がないにも関わらず、受け手側がわかったつもりで「あー、それね」と返していると、実は全く内容が伝わっていなかった、ということもあり得ます。
「なるほど。そんな経験したことある」と納得するトレーニーたちに向けて、山崎准教授は、人は見た目が9割であり、しっかり聞いている、わかっていると、アピールすることが大切だと伝えます。そのためには、頷きや相槌、発言を繰り返すといったことが有効なのだとか。ポスター発表を控えたトレーニーたちにとって、この講演は発表するだけでなく、どのような姿勢で聞くべきかについても考える機会となりました。
着々と開発が進む ―― 展示ツッコミ会1~3
続いては、イベントのメイン・プログラムともいえる、展示ツッコミ会。園田トレーナーが期待していた、あっと驚く内容、バリバリ動くデモンストレーションはあるでしょうか。
今年も各コースのトレーナーがコース作品を紹介した後にそれぞれがLT発表し、その後各部屋に別れて展示を見てもらうという方法で発表を行いました。
各展示ではポスターやホワイトボード、ディスプレイを使用して、ポスターを解説しつつ、モニターに投影した自作のデモ動画などを用いながらプロダクトの魅力や仕組みをアピールしていきます。今回は5つのポスター展示を紹介します。
表現駆動コースの伊熊涼介さん(金沢工業大学)・加川佑哉さん(インフォ・ラウンジ株式会社)・松田真侑さん・松葉大和さん(武蔵高等学校)・宮崎航大さん(芝浦工業大学附属高校)のチームは、現代のSNSが抱える「つながりの希薄化」という課題に一石を投じるべく、「デジタル飛脚」を開発しています。このプラットフォームは、デジタルの通信手段のなかに、アナログな手紙が持つ良さを組み合わせたもので、「あえて手間と時間を楽しむ」ことを重視しています。
「デジタル飛脚」は、送信者と受信者の実際の距離に応じて、特定の歩数に達しないと手紙が届かないという仕組みです。送信者は歩くことで、相手との時間や距離を感じることができ、届いた時に達成感を味わうことができます。また、UIにもこだわり、手紙の封を閉じると書き直しができなくなるなど、手紙らしさを再現しています。
UIを担当する松田さんは、今回の発表について、どのように他者に伝えるかという表現に関するアドバイスや意見を多く受け取ったと話します。例えば、ポスターについて、ユースケースをより具体的に示すことで共感を得やすくするという指摘や、「あえて遅い」というコンセプトに納得感を持たせると良いのではないかという提案があったといいます。
また、今回の発表ではデモが準備され、スマートフォンでQRコードを読み取ることで「デジタル飛脚」の送信機能を実際に体験できる機会が設けられました。この体験を通じて参加者からフィードバックを受けた松田さんは、「自分では気づけなかった視点を得ることができた」と振り返ります。その上で、「これから本格的な実装に進んでいく中で、プロジェクトの主軸を見失わないように努力を続けたい」と語り、今回の意見を参考にしつつ、2月の発表に向けて、開発を進めていく決意を述べました。
遊座広太郎さん(思索駆動コース)のは、天気予報のように未来の感情を予測し、心の準備を可能にする「感情予報」というユニークな作品を開発しています。この作品は、ユーザーにネガティブな未来を想像させ心構えをしてもらうことで、心理的ダメージを緩和したり、「かかってこい」と意欲を掻き立てるきっかけを作り出すことを目指しています。
特に興味深いのは、「感情予報」の内容自体をあえてネガティブにするという発想です。晴れの予報が外れて期待を裏切るよりも、悪い予報が外れて実際には良い結果になる方が、結果的にポジティブな印象を与えられると、遊座さんは考えています。
「感情予報」の仕組みは、ユーザが翌日のスケジュールを入力すると、大規模言語モデル(LLM)にあらかじめ読み込ませた日報データをもとに翌日の感情スコアと予測される出来事を出力するというものです。遊座さんの場合、直近4カ月分の日報約6万字を使用しています。感情スコアは1日を100点満点で評価し、その点数に応じて「Happy」「Sad」「Worried」の3種類に分類されます。また、天気図のように、1日の概要や予測される出来事が簡潔な文章で提示されます。
遊座さんによると、現段階では生成される文章の精度に課題があり、非現実的な内容やポジティブすぎる出来事が出力されてしまうこともあるといいます。そのため、より現実味のある予測を提供できるよう、ファインチューニングが必要だと語ります。
今回の発表では、感情という主観的な要素を扱う作品をどのように評価し、他者にその魅力を伝えるか。また、「感情予報」を広く活用してもらうためにはどのような工夫が必要かといった点について、多くの意見が寄せられました。遊座さんはこれらのフィードバックを参考に、作品をより良いものにしていきたいと語ります。
渋谷和樹さん(開発駆動コース・仲山ゼミ/京都大学)は、「Open-VE」という中央集権型のデータバリデーションロジックストアを開発しています。データバリデーションとは、入力されたデータの形式や値が適切かどうかを確認することを指します。例えば、ログイン時にパスワードが特定の文字数以上で英数字を含む必要があるといったルールも、バリデーションの一例です。バリデーションは入力時だけでなく、プログラムの処理中やデータの出力時にも重要な役割を果たします。
渋谷さんによると、「Open-VE」を利用することで、これまで言語やレイヤーごとに個別に実装していたバリデーションロジックを一箇所で一元管理できるようになり、安全性が大幅に向上するといいます。従来の一般的な手法では、使用する言語やフレームワークごとに同じバリデーションロジックをそれぞれ実装する必要がありました。その結果、言語間でロジックに差異が生じたり、実装が抜けてしまうリスクがありました。渋谷さんは、「Open-VE」によって一貫したデータバリデーションを提供することが、インジェクション攻撃の防止など、システムのセキュリティ強化に大きく寄与すると語ります。
なお、このポスター発表に際して、渋谷さんは、「Open-VE」の魅力を効果的に伝えるために、ポスターの中で「Open-VEがない世界」と「Open-VEがある世界」を図解し、視覚的にプロダクトの世界観を共有することに力を入れたといいます。このプロダクトの主なターゲットについて、渋谷さんは、マイクロサービスやLambdaといったサーバーレスアーキテクチャを活用した分散型ウェブアプリケーションの開発者に絞っています。それだけ分野の専門性が高く、広く一般的に魅力や利点を他者に伝えるのが難しいという課題があるからです。次回のイベントでは、どのように工夫を凝らし、魅力を伝えてくれるのか、その手法にも注目です。
2日目
レビューが自信に繋がった ―― 展示ツッコミ会4~5
午前中から午後まで、みっちりとプログラムが詰め込まれたイベント2日目。外は良い天気で、恒例の朝散歩でも周辺の散策に出掛けた模様です。
そしてこの日最初のプログラムは、前日に引き続いての展示ツッコミ会です。
羽持涼花さん(学習駆動コース・社会実装ゼミ/青山学院大学)は、心理的に安全なSNS環境を提供することを目的に「Palce」というSNSを開発しています。このSNSは、文章の言い換えや絵文字など言葉以外のフィードバックを提供します。現在は、Google社が開発したGemma2をベースにした日本語継続事前学習モデルにプロンプトを与え、適切な言い換え表現を生成する仕組みを構築しています。また、倫理的な行動を促進するためのUI/UX設計やその他の機能の実装にも取り組んでいるとのことです。
今回の発表では、「Palce」の利用対象について議論がありました。羽持さんは対象を10代から20代の学生に絞ったつもりでしたが、「対象が広すぎる」「曖昧である」という意見が寄せられたのです。中でも、「小学生などの子供が安心して利用できるように、保護者向けの機能を導入してはどうか」という提案や、「学校での情報リテラシー教育が増えている一方で、親を対象にしたものは少ない。親向けに特化したアプローチが有効ではないか」といった親を意識したアドバイスも寄せられていました。
羽持さんは、これらのアドバイスを受けて、保護者の存在を十分に考慮していなかったことに気づき、改めて自身の甘さを痛感したといいます。同時に、教育分野で取り組む人々の意見が非常に参考になったと振り返ります。ただ、今回の発表は自分の開発の自信にも繋がったとか。「語彙力が十分でない子供たちにとって、言い換え機能は特に重要だ」というポジティブなコメントもあり、ユーザの倫理観を醸成するために3つの選択肢を提示するという自身のアイデアに対する確信を深めたといいます。
渡邉雄大さん(学習駆動コース・今岡ゼミ/九州大学)は、セキュリティ性の高いパスワード管理デバイスの開発を提案しています。このデバイスは、パスワードを手元で一元管理でき、USBやBluetooth接続を通じて簡単にパスワードを入力できるというもので、実際にその試作品を手元に示しながら発表を行いました。
ポスターには、紙、パスキー、パスワードマネージャーなどの他の認証手段と比較した表が掲載され、各項目が○×△で評価されているため、一目で渡邉さんのデバイスの利便性と安全性がわかるようになっています。この評価形式のおかげでデバイスの特徴がわかりやすかったという意見もありました。また、実際の試作品に触れてもらいながらのデモンストレーションでは、パスワードを一元管理できる便利さや、1秒もかからず起動できるのは素晴らしいといった肯定的な評価を得ることができた一方で、UIのボタンが小さいなどの改善点も指摘されていました。こうした具体性のあるフィードバックは、実際にデバイスを使ってもらうことで初めて得られる貴重なものと言えます。
さらに、「IDとパスワードの順序が異なるサイトでも使えるように設定機能を追加してほしい」といった要望も寄せられ、デバイスの実用性をさらに向上させるヒントも得られたようです。デモの体験を通じて、早い段階で試作品を準備しユーザの意見を集めることの重要性を実感したという渡邉さん。今回得られたフィードバックをもとに、今後はデバイスの基板や部品を完成させるハードウェアの改良を進めるとともに、UIの改善や強力なパスワード生成機能の実装に取り組む予定とのことです。
作品のセキュリティ要素について見つめ直す ―― 「習慣化」講義
ポスター発表を終えて、次のプログラムは、毎回のイベントでステップを踏んで続けられている「習慣化」の講義です。
毎回の講義で、「続けること」の大切さ、そのハードルを下げるためのアプローチを丹念に語る佳山トレーナー。今回はまず、参加者たちに「2日間の発表で特に良いと感じた人のマンダラートをぜひ見てほしい」と勧めました。今回も掲示されているマンダラートを通して、優れた発表をするためのヒントを得られるはずだといいます。
講義では、佳山トレーナーが「セキュリティ要素とは何か」と問いかけ、そもそもなぜセキュリティが必要なのかを改めて考えることを促しました。複雑なパスワード、多要素認証、証明書など、セキュリティには多くの手段が存在しますが、それらが求められる理由は「脅威の存在」にほかなりません。
SecHack365では、セキュリティに関連した多様な開発が進められていますが、それぞれのプロジェクトがどのようにセキュリティとして機能しているかは異なります。例えば、脅威そのものに対抗することを目的とする作品があれば、作品自体が脅威にさらされるリスクに対抗するものもあるでしょう。佳山トレーナーは、参加者に「自分の開発がどちらに該当するのかを考えてみてください」と語り、優れた作品づくりを進める上で重要な視点を示しました。開発に思い悩んだら、改めて自分が開発するプロダクトのセキュリティ的要素と脅威との関係性を考えてみるのが突破口になるかもしれません。
トレーナーの貴重な経験から学ぶ ―― 縁日
今回も縁日(ワークショップ)を実施しました。さまざまなバックグラウンドや仕事を持つトレーナーが、「今まさに自分が興味を持っていること」や「貴重な体験」を伝えてくれるSecHack365ならではの場です。トレーニーたちは興味のあるトレーナーのもとに集まります。
今回の縁日の「メニュー」は、以下の通り。
柏崎トレーナー | 激録!インシデントレスポンス365時間 |
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川合トレーナー | 開発はやりすぎるくらいがちょうどいい |
久保トレーナー | くぼたつ道場「スマホのAI生成動画はここまでできる実演」 |
安田レーナー | ラズパイで遊ぶ |
今岡レーナー | 音楽で伝えるあなたの作品の素晴らしさ |
坂井レーナー | バイナリかるたを作ってみよう |
佐藤レーナー | ペネトレーションテストことはじめ |
園田レーナー | プロデューサーへの道 |
さて、そんななから、まずは川合トレーナーの「縁日屋台」を覗いてみることにします。
10/26(土)に行われたオープンソースカンファレンス2024東京・秋で自身が行った展示を再現するという川合トレーナー。ワークショップが行われている部屋へ向かうと、そこには箱根登山鉄道を模したNゲージの鉄道模型が準備されていました。家や木々が並ぶレイアウトが設置され、箱根登山鉄道に関連する書籍も揃っています。
この展示の目玉は、鉄道模型を自作言語で自動運転させるというユニークな取り組みでした。自動運転に必要なセンサーはたった1つ。車両がコースを2周することでおおよそのスピードを計算し、車両の位置を特定します。その上で、車両に「車庫から出して駅に停める」などといった指示をするのです。このような仕掛けは、技術好きな人々の興味をひきます。
川合トレーナーがこの展示を通じて伝えたかったのは、「やりすぎること」の大切さでした。実際、やりすぎることで、普段のように呼び込みをしなくても多くの来場者が足を止め、興味を示したといいます。聴衆をどのように振り向かせるべきか、このアプローチは、今後の成果発表会における効果的なプレゼンテーションのヒントとなるかもしれません。
そして、NICTのナショナルサイバートレーニングセンター長を務めながら、多くのイベントやコミュニティに関わる園田トレーナー。その「縁日屋台」も覗いてみることにします。
園田トレーナーは、数々のイベントや事業を立ち上げてきた経験をもとに、イベントの作り方やその発想、マーケティングについて語りました。彼が関わるイベントは、SecHack365をはじめ、セキュリティ・キャンプ、SECCONなど多岐にわたります。そのため、このワークショップにはトレーニーだけでなく、外部からも多くの聴衆が集まりました。
もともとサラリーマンとして働いていた園田トレーナーが、イベント企画の道に進むようになった経緯は興味深く、特に注目されたのが「人脈」の重要性についての話でした。新しいイベントを立ち上げるたびに、佳山トレーナーや久保田トレーナーなど、その後SecHack365でもすっかりお馴染みになった仲間たちとの出会いを重ねてきたといいます。その様子は、まるでRPGでダンジョン探索を進めて行くにつれてパーティーメンバーを増やしていくかのようで、興味をひくエピソードでした。
このワークショップを通じて、園田トレーナーが最も強調したのは「人脈の大切さ」です。「プロデュースとは人と人を組み合わせること」という言葉には、これまで築いてきた経験と信念が凝縮されていました。そして、このSecHack365での出会いもまた、トレーニーたちの人生に大きな変化を生み出すことになるかもしれないのです。
関西地域のセキュリティ分野への理解を深める ―― コミュニティトラック
オフラインイベントならではの、そのご当地周辺を拠点に活躍する方々にお話を聞くコミュニティトラック。今回は、関西で活躍する6つの団体をお招きし、それぞれの活動内容や取り組みについて語っていただきました。それぞれが持つ多様な視点や目的は、関西地域のICTやセキュリティ分野への理解を深めることに繋がったはずです。
近畿総合通信局の猿田達彦氏は総合通信局の業務内容を詳しく紹介しました。総合通信局は、全国に11地域設置されている総務省の地方支分部局です。従来の電波監視業務に加え、今日ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進やICTベンチャーの支援なども含め、幅広い活動を行っています。さらに、地方でのセキュリティ人材の育成を目指し、事業者や地方公共団体、大学教授らと協力し、コミュニティづくりにも力を注いでいるとのことでした。
一般財団法人関西情報センター(KIIS)の石橋裕基氏は、KIISの誕生が1970年の大阪万博開催年と同じであると、タイムリーな話題を提供。当初はパソコンやコンピュータの普及を目指していたKIISは、現在では関西地域の産業活性化に向けたビジネス創出支援や情報系シンクタンクとしての調査研究を行っています。また、セミナーや情報発信を通じて地域社会への啓発活動も積極的に展開しているとのことです。
TKTKセキュリティ勉強会の宮田明良氏は自身の経験を交えながら、勉強会を通じて得た多くのネットワークが、どれほど大きな財産であるかを強調しました。その上で、SecHack365のような場で多くを学び、いずれは自身の知識や経験を還元できるようなトレーナーを目指してほしいと激励しました。また、「チャレンジを忘れず、いつでも転職できる尖った人材になってほしい」というメッセージも印象的でした。
子供とネットを考える会の山口あゆみ氏は、幼児から高校生までの子供を持つIT系の企業に勤めるお母さんたちで運営するコミュニティを紹介。子供たちがネットに触れるなかで、より安全でより良い環境で成長していけるように啓蒙活動を行っているといいます。最近では、親の立場で子供に講演するだけでなく、子供の立場で親世代を見守る勉強会を行うなど範囲を広げているようです。
セキュリティ若手の会の佐田淳史さん(2023年修了⽣)は、自身の就職活動での苦い経験から、将来エンジニアを目指す学生と、すでにセキュリティ業務に携わる若手エンジニアをつなぐ活動に力を入れています。このコミュニティでは、技術的な知識や実務内容、さらにはキャリア形成に関する情報交換が活発に行われており、参加者は業務への理解を深めると同時に、将来のキャリア形成に役立つ知見を得られる場となっています。
OWASP Kansaiの森田智彦氏は、セキュリティ分野の知識を共有し合う場の提供に尽力しています。このコミュニティは、ガイドラインの作成や地域コミュニティの支援を行う一方で、関西地域が日本の真ん中に位置する利点を活かし、地域間をつなぐハブとしても機能しているといいます。これからも、スキルや役職、業種、国籍、性別、年齢に関係なく誰でも参加できるコミュニティを目指し、敷居を低くする工夫を重ねていくとのことです。
OWASP Kansaiの紹介を終えたあと、森田智彦氏は、パナソニックホールディングス株式会社に勤務する立場からも講演を行いました。同社に所属する山原智之氏とともに、セキュリティ分野における企業の取り組みについて詳しく紹介しました。講演では、企業全体のIT環境を管理し、デバイスやシステムの安全を確保するCSIRTの活動や、自社で製造・開発する製品やサービスのセキュリティレベルを向上させ、インシデント発生時に迅速に対応するPSIRTの役割について解説しました。
横山トレーナーは、今回のイベントを通じて新たな人脈を築くことの重要性を強調し、参加者に対して「積極的に登壇者たちに話しかけ、貴重な学びやつながりを得てほしい」とエールを送りました。
先輩のトレーニー時代の過ごし方を学ぶ ―― 修了生講演
過去のSedHack365に参加した修了生による講演。
今回は、石川琉聖さん(2020年修了生/立命館大学大学院)と、コミュニティトラックにも参加した佐田淳史さん(2023年修了生)の2人が登壇。
石川さんは、1月の成果発表に向けて早めに計画を立て、11月には仲の良いトレーニーに作品のレビューを依頼したり、実際に使用してもらうことでフィードバックを得ていたそうです。その後、12月に入るとロジックや仕組みの部分には大きく手を加えず、作品をいかにビジュアル的に面白く魅せるかに注力。さらに、1月にはデモや成果物の動画作成、バグ修正を行い、ほぼ完成した状態に仕上げていたといいます。
石川さんの取り組みのポイントは、成果発表会直前に慌てて完成させるのではなく、早い段階で作品を仕上げ、時間をかけてブラッシュアップするというプロセスです。
活動を継続するモチベーションについて石川さんは、「やりたいことをやってきただけ」と語ります。新しい技術を学ぶことや、学んだ内容を発信する準備を進めることに苦痛を感じず、楽しみながら取り組んできた結果が自然と作品作りへとつながったそうです。このような「モチベーション駆動型」のアプローチによって、無理なく着実に作品を進めることができたと振り返りました。
佐田さんは、「とめどない思索と創作活動」というテーマで、自身の仕事内容や趣味を交えつつ講演を行いました。
「創作活動=ものづくり」というと、開発作業に専念するイメージが強いですが、佐田さんはこれを“総合格闘技”に例え、多様な能力の重要性を強調しました。例えば、ものづくりを始めるにあたっては、まず「何を作るべきか」「どのようなニーズが存在するのか」を深く考える「思索」の能力が欠かせません。その後、実現に必要な知識や技術を「学習」し、それを形にする「開発」を行います。そして、完成した成果を広く伝えるためには、「表現」のスキルも必要です。
SecHack365では、トレーニーが各コースに分かれて活動していますが、どのコースにおいても、これらの能力を磨くことが重要です。「思索」を重ねながらものづくりに取り組む佐田さんの講演は、トレーニーにとって、イベント期間中だけでなく、修了後のものづくりにも大いに役立つ貴重なアドバイスとなったことでしょう。
放課後の時間も有意義に活用する ―― アシスタント&トレーニーの時間
放課後は、トレーナー抜きで、トレーニーとアシスタントが交流する時間。今回は、話してみたいアシスタントに向かって、トレーニーが駆け寄る椅子取りゲーム方式で行われました。普段あまり交流する機会がなかったアシスタントに、自分の中でモヤモヤとしている疑問を相談したり、次回のイベントに向けた具体的なアドバイスを受けたりしました。
放課後の自主的活動は、まだまだ続きます。
学習駆動コースの山田快さんは自身が開発した「ファイル内容が読み込みごとに変化するUSBメモリ」(詳しくは第3回イベントのレポートを参照)を実演しました。
まだまだ動作に若干のタイムラグが生じたりはするものの、実際に予約した曲に応じて、ビデオ画面が山田さんの用意したものに自動で切り替わっていく様子が披露され、その場で活発なフィードバックのやり取りが行われました。
こうして、「大阪南港の熱い夜」は更けていくのでした……。
3日目
自分にない視点に気付かされた ―― 「法律と倫理」講義
今回は単なる講義ではなく、北條トレーナーが考えたケーススタディをもとに4つのグループに分かれて、ケーススタディの登場会社・⼈物の問題点を発表し合うグループワークを⾏いました。テーマとなったケーススタディは昨今多数の被害が発⽣しているランサムウェアの事例であり、簡単な概要は次の通りです。
「ある企業がランサムウェア攻撃を受け、秘密のデータが暗号化され、⾝代⾦3000万円が要求されました。対応したセキュリティ企業や無関係のCさん、Dさんが登場し、複数の問題点が⽰されました。」
北條トレーナーから、今回のディスカッションに向けてかなり詳細に作り込まれた状況を準備していただき、その内容を基に、トレーニーたちは、被害企業、セキュリティ企業、無関係のCさん、Dさんそれぞれの⾏動や問題点について議論しました。まず、ホワイトボードに登場⼈物の関係性を図⽰し、各⾃の⾏動や情報の流れを整理しました。⾯⽩いことに、各チームが描き出した相関図はそれぞれ異なるものになりました。
その後、北條トレーナーが各チームの発表を聞きながら議論を深めました。たとえば、「被害企業が⾝代⾦を払ったことで倒産してもいいのだろうか」「Cさんが本当に正義感から対応しようとしたのか」など、状況の裏にある意図や選択を推測する場⾯もありました。このケーススタディには正解がなく、多⾓的な視点から考察を⾏うことが求められる内容でした。各チームは活発に議論を進める中で、⾃分にはなかった新たな視点や意⾒を得ることができました。
あっという間に最後のプログラム ―― 相談・クロージング
トレーナーとアシスタントを含めた8グループに分かれて、相談・交流の時間が設けられました。各グループでは、改めて自己紹介を行ったり、これまでの発表をもう一度共有し合ったりする場面が見られました。参加者同士が相手の発表に拍手を送り合うなど、穏やかで和やかな雰囲気の中で進行しました。
交流の時間が終わると、いよいよクロージングです。横山トレーナーが今回のイベントを振り返りながら参加者たちにメッセージを送りました。
「もしかすると、準備不足で悔しい思いをした人もいるかもしれません。でも、肩の力を抜いて、自分らしく見せることができれば、それが成功です」
その上で、今回のイベントを、次にどんなものを見せようか考えるきっかけにして欲しいと語ります。「見せることへの意識を持ち、その方法を今から想像してほしい」―― 横山トレーナーから示された、次回に向けての課題です。また、自分のものづくりに注力するだけでなく、他人の成果物をレビューすることの重要性にも触れ、「他人のものもレビューできるということは、それだけ読み込んで消化できているということ、40人分の力がつくはず」とのアドバイスも送られました。
次回の第5回イベントは、2月1日(土)・2日(日)にオンラインで全員がビデオ動画で発表します。「次回の発表で、皆さんがどのように自身の成果を見せてくれるのか、とても楽しみにしています」と語る横山トレーナー。こうして、楽しく、実り多く、親睦を深め合ったイベントは、次回への期待にも包まれながら締めくくられました。
今年度最後の地方開催となるSecHack365の第4回イベント。会場となった大阪のウォーターフロントといえば、「Expo2025 大阪・関西万博」の開催を控え、注目度が上がっている地区でもあります。
万博は地域活性化にも大いに貢献することが期待できる一大イベントですが、一方でサイバー犯罪の標的となるリスクも懸念されています。その意味では、情報セキュリティの見地からも、まさに“ホットスポット”と呼べるかもしれません。
さらに、この地区は大手企業の研究施設、最近ではデータセンターの建設などもあり、交流と先端技術の拠点としてますます発展を遂げようとしています。
そんな、刺激を受けるのにピッタリな場所で行われた第4回イベント。その一部始終をレポートしていきたいと思います。