SecHack365 2024 / 2nd Event WeekReport 2nd Event Week

第2回イベント(2024年7月19日~21日)

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オフラインイベントを思いっきり楽しむ

SecHack365の第2回イベントが7月19日(金)から7月21日(日)にかけて行われました。今回は今年度初のオフラインイベントで、普段なかなか見ることができないNICT施設の見学や対面での発表など、オフラインならではの魅力が詰まっています。このイベントは、インプットとアウトプットを繰り返し、自分がこれから何を作っていくべきか、アイデアを磨き上げていく絶好のチャンスです。では実際に、この3日間、トレーニーの皆さんはどのように行動し、何を掴んでいったのでしょうか。レポートしていきます。


オープニング・オリエンテーション

イベントはNICT本部に集合してスタートしました。盛夏の暑い日差しのもとですが、全国各地からトレーニーたちがスーツケースを引きながら続々と集まり、期待感が高まっていきます。オープニングの挨拶やレクチャーが終わると、早速NICT職員による講演と施設見学が行われます。NICTの活動は多岐に渡るため、今回見聞きできることは、その活動のほんの一部とはいうものの、先端の研究に触れることができる貴重な機会です。トレーニーの皆さんも、緊張しつつも興味を掻き立てられている様子です。

セキュリティの最先端を学ぶNICT職員による講演

最初の講演は、セキュリティ基盤研究室の大久保美也子主任研究員が登壇し、「セキュリティ基盤技術の研究開発」というテーマで行われました。この講演では、暗号技術の基礎からその未来にわたる展望が語られました。暗号技術はスマホやICカードなど日々触れているものには必ず使われている技術で、その暗号化方式には「共通鍵暗号方式」と「公開鍵暗号方式」の2種類があります。共通鍵暗号方式は、送信者と受信者が同じ暗号鍵を使ってデータを暗号化・復号化する方式ですが、大人数で情報を共有するのには向いていません。それに対し、公開鍵暗号方式では受信者側が情報を暗号化する鍵と復号化する鍵を生成します。公開鍵暗号のなかでも現在代表的な存在となっているRSA暗号は、素因数分解の難解さを利用しており、安全性が高いとされています(N=p×qという形で表される大きな数Nが与えられた場合、素因数pとqを見つけるのが難しいという特性を利用している)。しかし、量子コンピュータが普及すると、RSA暗号は容易に解読されてしまうと大久保研究員は語ります。そのため、量子コンピュータにも耐えうる符号や格子を使った新しい暗号方式の開発が進められています。

次に、サイバー攻撃観測・分析システムNICTERの開発・運用を担当するサイバーセキュリティ研究室の笠間貴弘室長が講演を行いました。これまでにNICTERを使ってミライボット(2016年)やアンドロイドOS(2018年)の欠陥を見つけてきたという笠間室長は、「セキュリティを考える際には悪意のある人の視点で考えることが重要だ」と強調します。例えば、Wi-Fiルーターの初期パスワードを変える人はほとんどいません。実際に約7割はパスワードを変えずにそのまま使用しているのです。しかし、これらのパスワードは果たして安全なのでしょうか? 当然ながら「No」です。一見ランダムに見えるこれらのパスワードは、実は特定のルールにしたがって生成されているといいます。セキュリティの穴を衝こうとする側からすると、パスワードを導く特定のルールを見つけることで、すべてのパスワードを解析できてしまうのです。

講演を受けての質疑では、トレーニーからNICTERのUI(ユーザーインターフェース)に関する質問が投げかけられました。NICTERは、まるでSFのように未来的で、まるでゲームをやっているような感覚で使えるインターフェースを持っています。これについて、「国の機関であるNICTが、どうやってこんなカッコいいUIを採用することができたのか?」という問いが出たのです。これに対して、笠間室長は「これらのUIが実際にオペレーションで使うことができるという実用性を備えているから可能だった」と答えました。このUIはただカッコいいだけではありません。データを全て可視化せず、必要な情報だけに制限しているため、ユーザーの思考が定まるといった特長もあります。笠間室長は、実際にNICTERを見続けていると、小さな変化に気づくことができるようになったといいます。例えば、2016年のリオデジャネイロオリンピックでは、治安維持のために導入された監視カメラが感染し、サイバー空間が危険な状況になった際も、NICTERを通じて状況を把握することができたそうです。

説明が難しいことも、ビジュアル的に可視化することで、アピールすることができます。ただそこで大切なのは、デモのためのデモではなく、実用的なものであること。この考えは、今後の開発にも参考になるのではないでしょうか。

未来を想像する - Beyond5G・展示室見学

続いてBeyond5G研究開発推進ユニットの展示も行われました。Beyond5Gとは、2030年代に導入される次世代の情報通信インフラで、あらゆる産業や社会活動の基盤となることが見込まれています。従来の移動通信(無線)の延長上だけで捉えるのではなく、有線・無線や陸・海・空・宇宙等を包含した統合的なネットワークと考えられています。これが実現する頃には、社会のなかで技術の最前線を担うことになるに違いないトレーニーたちに、2030年にはどんな社会になっているのか想像してもらおうと、さまざまな展示が準備されていました。特にタッチパネルを使った展示は、ネットワークの統合というイメージしにくい未来をわかりやすく伝えるものです。

台状の画面をタッチすると、農業や災害に対してBeyond5Gがどのように関わり、社会を変えていくのかを見ていくことができます。この展示によると、農業の分野では、栽培方法や需要供給の調整、配送の効率化などを通じて、無駄をなくし、効率的に農作物を育てて食卓に届けることができるようになるといいます。トレーニーたちも2030年の世界に興味津々で、Beyond5Gがこれまでの通信と異なる点やその実現の可能性について、説明に立った職員に盛んに質問していました。

その後、トレーニーたちは2つのグループに分かれ、順に7月にリニューアルされたばかりの展示室を見学しました。この展示室では、セキュリティや通信に関する多様な展示が行われており、実際に体験できる展示もありました。例えば、「音声マルチスポット再生技術」では特定の場所だけに音が聞こえるように制御する技術です。音波を打ち消して他の場所に聞こえなくすることで、特定エリアにだけ音を届けることができます。これを使えば、同じ空間で日本語、英語、フランス語、中国語など最大8種類の言語の音声が流れていても、特定の場所に立つとその言語だけがはっきりと聞こえるようにすることができます。トレーニーたちはスピーカーの前をぐるぐると回り、実際にその技術を体感しました。場所を移動するたびに違う言語が聞こえてくることに驚きの声が上がり、「すごーい!」と感嘆するだけでなく、「どういう仕組みなんだろう?」と興味津々に話し合う姿も見られました。

展⽰室の⾒学が終わると、トレーニーたちはバスでイベント会場に移動し、リラックスした雰囲気の中で、あちこちで、トレーニー同⼠やアシスタント、トレーナーとの交流を楽しみました。

積極的に自慢する?コースワーク(前半)

初⽇の夜は、各コースに分かれてコースワークが行われました。

学習駆動コースでは、2人組になって、各ペア15分間の持ち時間で、自分が作っているものや調べたことなどを説明しあう「ペア輪講」を行いました。1対1だとわからなくても質問しにくくはありません。ただし、このペア輪講では、相手の理解度に合わせて説明のレベルを調整することが求められます。SecHack365は、セキュリティ分野という大きな枠組みはあるにしても、集まったトレーニーたちの興味の方向はさまざまで、特定の分野に対する理解度や知識にも、当然ながら差があります。また、今後行うことになるポスター発表でも、ブースを訪れた人の理解度に合わせ、様子を探りながら、臨機応変に対応しなくてはいけません。これは、そのための重要な訓練でもあります。「ペア輪講」の様子を見ていると、最初はほぼ全員が2日目の発表で伝える内容を紹介していました。ただ、話が盛り上がるにつれ、自分の興味関心分野について熱心に話し込むペアも出てきました。

坂井トレーナーは、「SecHack365では、説明する楽しさを実感してもらいたい」と語り、自慢したいことを積極的に見せびらかしてほしいといいます。トレーニーたちも、自分の興味関心分野について話すことで、説明のスキルを磨くとともに、相手の話から新たな発見やアイデアを得ていました。

あっという間に終わってしまった1日目。移動もあって体力が削られてしまったかもしれませんが、2日目は朝から夜までの長丁場です。翌日に備えてゆっくりと体を休ませます。

修了生の今を知る修了生講演

2日目は、ゲスト修了生の講演から始まりました。

彼らはSecHack365での活動や現在の仕事について貴重な経験を共有しました。SecHack365での経験が、どのような未来に繋がっていくのか――これは、トレーニーの皆さんに、そんな将来の可能性を感じてもらうための一コマです。

まず登場したのは、2020年度の学習駆動コース坂井ゼミ修了生で、現在Defios株式会社の代表取締役を務める竹田大将さんです。竹田さんは、大学の仲間と起業し、SecHack365での経験を生かしてビジネスの世界に飛び込みました。彼の修了作品「iGenc (Internal GPU encrypt):SoC内GPUを用いたUX(ユーザーエクスペリエンス)を低下させない暗号処理機構」は、CPUのパフォーマンスを低下させずに高負荷な暗号処理を実現するというもので、彼は優秀修了生にも選ばれました。

竹田さんの関心は特にGPUにあり、雑誌「インターフェース」(2022年8月号)に「インテルPCやNVIDIAで試す!GPUプログラミング入門」というテーマで寄稿しています。また、Defios株式会社のホームページには、SecHack365で作った「iGenc」の動画も掲載されています。竹田さんは「興味・こだわりがある技術があっても、それがビジネスにつながるかどうかが大切だ」と語ります。

次に登場したのは、2021年度の思索駆動コース修了生の矢川嵩さんです。彼のトレーニー時代はコロナ禍のためすべてのイベントがオンラインでの実施でした。だからこそ今回のようなオフラインイベントで直接コミュニケーションが取れる重要性を感じているといいます。彼は「SecHack365から今に至るまでの思索」というテーマで講演し、大学で研究を続けるか一般企業に勤めるかという、学生世代の修了生によくある悩みについても話しました。

大きな刺激を受けたゲスト講演

今回は株式会社Acompany櫻井 碧 氏に「TEEとの宿命」というテーマでご自身の経験を語っていただきました。講演の冒頭には、趣味であるバイクの話を交えるなど、まさに学習駆動コースのトレーニーたちがコースワークで学んだ“自慢する”ことを実践していました。

櫻井 氏が講演で取り上げたテーマ「TEE(Trusted Execution Environment)」は、機密性の高いデータを信頼できる領域に配置し、その中で安全に処理を完結させる技術です。

この講演でトレーニーたちに衝撃を与えたのは、大手企業が提供するサービスだからといって100%安心できるわけではない、というお話でしょう。実際に起きた事例として櫻井 氏が挙げた、あるゲーム会社が作成したYouTube動画が発表前日にリークされたという事件。これは、IT企業の契約社員がゲーム会社の非公開動画を管理者アカウントで閲覧し、外部に漏洩したことが原因とされています。サイバー攻撃によるデータの抜き取りとはまた違った角度からのセキュリティ上の問題で、普段なかなか意識していなかったことかもしれません。トレーニーの中にも、データ管理をより慎重にしなくてはいけないと改めて感じた人が多かったことと思います。

SecHack365では、今年からより一層、トレーニーたちの社会実装に向けた開発を後押ししていきます。その上で、これらのSecHack365での研究・開発を生かして社会で活躍している修了生やゲスト講師による話は、非常に参考になったはずです。

課題を解決するアイデアスライド発表

第2回イベントでは、トレーニー各自による、スライド形式での発表も行われました。オンラインではなく、実際に対面形式で発表を行うのはこれが初の機会です。キックオフから約1ヶ月が経過し、明確な目標を持って進んでいるトレーニーもいれば、まだアイデアを模索中のトレーニーもいます。ここでは、トレーニー3人の発表を紹介します。

伊熊涼介さん(表現駆動コース)は、表現駆動コースでの活動を発表しました。このコースでは、いくつかの課題が出され、その中の一つに「社会課題を一つ考え、それを解決できるものを作る」というものがありました。「チーム体制で、フェーズごとに新たな開発テーマに挑戦する」というのが、表現駆動コースの大きな特徴でもあります。伊熊さんのチームは、PC作業中の目の疲れを軽減することを課題に設定し、人が集中すると瞬きの回数が減るという特性に着目。瞬きの回数を計測し、少なくなったらメッセージを送る機能を備えたサービスを開発しました。伊熊さんは「どんなものを作るのか考えることが一番大変だった」と振り返ります。

新矢将宗さん(開発駆動コース)は、個人で簡単に運用できる分散型SNSの構築に取り組んでいます。新矢さんは、SNSが日常の記録や思考、思い出、人間関係の蓄積の場として非常に重要である一方、既存のSNSは運営のルールに従う必要があり、一方的な投稿削除や突然のサービス終了のリスクがあることを指摘しました。そこで、新矢さんは、世界中と繋がることができるというSNSの特性を残しつつ、物理的な日記帳のように手元で管理できるSNSを開発することを目指し、その実現に向けた開発を進めています。

小野悠さん(思索駆動コース)は、性別分けに対する抵抗についての考察を発表しました。小野さんは、社会のあらゆる場面で性別分けを経験することに気づき、それに対する「暗黙の了解」を明らかにすることを目指しています。具体的には、なぜ性別分けをするのか、どのように性別を分けているのかといった疑問を解き明かしたいと考えています。今回のイベントでは、さまざまな人の話を聞くことで新たな視点を得たいと語りました。

実は修了生も苦手だった?習慣化

毎回恒例の佳山トレーナーによる習慣化では「時間を錬金する集中力のコントロール」の講義の後に、修了生アシスタントとのパネルディスカッションが行われました。参加した思索駆動コースアシスタントの宇治川ひかるさん(2023年修了生)と研究駆動コースアシスタントの橋本俊甫さん(2022年修了生)は自身の体験を語ります。

宇治川さんは、当時、習慣化の必要性をそれほど感じていなかったと正直に話します。むしろ、毎日同じ行動することが、自分の行動を縛りつけ、つまらなくしてしまうのではないかと考えていたそうです。しかし、実際に習慣化を試してみると、最低限のことを毎日こなせるようになり、他に何ができるだろうと考えるようになったといいます。そして修了間際には、習慣化によって1日を有意義に過ごすことができると気づいたといいます。

橋本さんも秋頃までは、マンダラート(自分の目標とそれを達成するのに必要な行動や心掛けを一枚の紙にまとめたもの)を埋めてはいたものの、アップデートせず、内省する(向き合う)ことを避けていたと語ります。しかし、コツコツ積み重ねることが自分には合っていると感じ、日報を始めました。修了後に日報を見直し、その必要性を再認識したといいます。

このように2人とも修了後に習慣化の意義を感じたといいます。宇治川さんはさらにイベント中の反省として、7月に大きな目標を立てすぎたことを挙げました。

「9月頃に目標が達成できていないと気づき、書き直したため空欄が目立ってしまいました。それ以降は、“太陽の光を浴びる”など、自分が苦しくならない小さな目標を立てるようにしました」

この際参考にしたのが、掲示されたマンダラートです。十人十色のマンダラートには目標を細分化するためのヒントがたくさんあり、自分に合った形で採用できると感じたそうです。

続けて、佳山トレーナーは、今年のトレーニーたちのマンダラートについてどう感じるか尋ねました。宇治川さんは色を塗ったり、「〇〇と言えば自分」といった記載があり、マンダラートをうまく活用していると評価しました。一方で橋本さんは「自信」について書いている人が7人いたと指摘し、自信があるというのはポジティブなことなのだろうかと疑問を投げかけました。SecHack365のようなイベントやコンテストでは、自分よりも“できる”人がたくさんいます。もしかしたら、その人と比較してしまうことで、自信を無くしてしまうこともあるかもしれません。であれば、自信を持つということが習慣化において負の働きをしてしまうのではないか? そう考えた橋本さんは、習慣化は行動コストを下げるためのものであり、自分のリズムを維持する助けになるものだと語り、自分にできないことを認めることも大切だと強調しました。

最後に、宇治川さんはマンダラートが日々の活力になると述べ、形は自由なので他の人のマンダラートを参考にして自分に活かしてほしいとエールを送りました。SecHack365では毎年、佳山トレーナーが指導している習慣化の講義とマンダラートの作成を行っています。今年も、各人が作成するマンダラートが大会議室の後ろの壁一面にズラリと貼り出され、気になる人・気になる目標には、皆が自由に付箋紙で手書きのコメントを付けていきます。佳山トレーナーは、「特に昨年度くらいから、単に『何かを開発するんだ』という一方向ではなく、内容の自由度が上がってきた気がする」と語ります。そのような変化が、今年度のトレーニーたちの開発、そして来年度以降のSecHack365にどのように影響してくるのかも、非常に興味深いところです。

実際に手を動かしてみる縁日

トレーナーが開催するワークショップ(縁日)は、5並列で2回行いました。内容は講義のようなタイプのものだけでなく、実際に手を動かして作業するものもありました。

実施した縁日は以下になります。

竹迫トレーナー 「オリジナルBadUSBを作ってみよう」
柏崎トレーナー 「夏の怪談」
花田トレーナー 「プロジェクトとして開発に取り組むためのTips」
今岡トレーナー 「実践ワイヤータッピング」&「お手軽FPGAボードで作るオレオレCPU」
坂井トレーナー 「低レイヤーを知ってよかったと思える実験その1(マルチタスク・カーネルを作る)」「その2(シグナルハンドラで自己エミュレーション)」
仲山トレーナー 「クラウドでうまく安全に作る話」
井上トレーナー 「RP2040 Matrixマイコンを使ってみよう」

そのひとつ、竹迫トレーナーが開催した「オリジナルBadUSB注1を作ってみよう」というワークショップでは、輸入品のUSBデバイス開発ボードを使って簡単なUSB組み込み機器のプログラミングを体験しました。多くの人は、USBケーブルを充電するために無造作に差し込んでしまいがちですが、実はUSBには信号ピンが2本、電源ピンが2本の合計4本のピンがあり、若干の物理的なスペースも存在します。それを利用し、悪意のあるプログラムが仕込まれるリスクがあります。最近すっかりおなじみになったUSB充電式の扇風機も、同様の危険性をはらんでいるとのことです。

そんなUSBに関する知識を得つつ、ワークショップに参加したトレーニーたちも実際に手を動かしてオリジナルのBadUSBを作成。ターミナルに素数を表示させる機能やSLを走らせる機能などを組み込みました。思わず「GoodUSBよりもBadUSBばかり思いついてしまう」と苦笑いする場面も。最後には、家でも作業を続けたいというトレーニーたちに対し、他人のパソコンに刺さないことを条件に、作成したUSBを持ち帰ることが許されました。

花田トレーナーの「プロジェクトとして開発に取り組むためのTips」というセッションでは、SecHack365の活動を通じてプロジェクト管理の重要性を学びました。トレーニーからの質問にも答え、素晴らしいアイデアを思いつくためにかかる時間については、ある程度の期間で区切るしかないと説明。また、プロジェクトを進める上での設計段階では、不採用となった理由などを記したメモや記録を残すことが大切だと語りました。

プロジェクトを進める中では、さまざまな困難があります。しかし、難しいプロジェクトをやり遂げた時の達成感は計り知れません。妥協して、あとで後悔することがないように計画をしっかりとたて、SecHack365をはじめ色々なプロジェクトに挑んでほしいとエールを送りました。

注1
BadUSBとは、ユーザーが気付かぬうちにUSBデバイスに悪質なプログラムが組み込まれるリスクを指す。

経験を共有するアシスタントを囲む会

放課後には、アシスタントを囲む会が行われました。これは5つのグループで同時に行われ、トレーニーたちは参加したいセッションに集まりました。

その中のひとつ、表現駆動コースアシスタントの中嶋桃香さん(2020年修了生)本多拓翔さん(2020年修了生)が開催した「表現アシスタントによるすべらない話」というセッションでは、それぞれの経験をもとにトレーニーたちにアドバイスをします。⼤学の卒業研究で「顔表情解析による⾃然な笑いと作り笑いとの識別」というテーマに取り組んだ中嶋さんは、その研究のストーリーをいかにわかりやすく伝えるか、起承転結の重要性を語りました。また、自身のトレーニー時代の後悔として、自分以上にプログラミングができる人に囲まれて萎縮したことや、誰かが教えてくれるだろうという思い込み、積極的な行動ができなかったことを挙げました。逆に良かったこととして、イベントデイ以外でも大学の課題について軽い相談ができたことなど、色々な階層の人が参加しているからこそのメリットを強調しました。自身の学生時代を振り返り、社会人になると平日は忙しくなるので、学生中の時間があるうちにさまざまなことに挑戦してほしいとエールを送りました。

本多さんは、チーム開発特有の合意形成の難しさについて語りました。相手を知らないと適材適所もわからないため、ミーティング以外の雑談を大切にしてほしいといいます。確かに今年のトレーニーは休憩中にも技術系の話を真面目にしている一方で、個人的な雑談が少ないような印象があります。本多さんは、トレーナーを含めて、もっと気軽に誰とでも話してみてほしいとエールを送りました。

学習駆動コースアシスタントの工藤蒔大さん(2020年修了生)は「SecHack365の歩き方」というテーマで話しました。彼は常に締め切りに追われる「締め切り駆動コース」を自称し、計画を立てるためにタスクの細分化を勧めました。第2回イベントでの発表資料を実際に見せるなど、自身の進捗状況も共有しながら、SecHack365で技術力、表現力、人脈を得られると語りました。そして、セキュリティに限らず、修了後も色々なことにチャレンジしてほしいとトレーニーたちを励ましました。その他にも、研究駆動コースアシスタントの橋本俊甫さん(2022年修了生)さんが「習慣化セッション延長戦 ~人生四苦八苦~」として、先ほどのパネルディスカッションの続きを話すなど盛り上がりました。

色々な人の話を聞くことができた2日目も終わりを迎えます。夜遅くまで活動したため疲れているかもしれませんが、明日はいよいよイベント最終日。最後まで全力でイベントを楽しみます。

ふざけることも大切コースワーク(後半)

1日目に引き続き、3日目にも多彩なコースワークが行われました。中には府中の街を散歩するコースもありました。

表現駆動コースでは、実は1日目の晩に、即席で作られたチームごとに提示された3つの課題のうち、どれかひとつを開発するという課題が出されていました。同コース名物の「ナイトチャレンジ」と呼ばれるこの開発。ついにその発表日です。今回出された3つの課題は以下の通り。
①せんだみつおゲームのアルゴリズムを作成し、「Sec」「Hack」「365」と答えさせる。
②キャラクターになりきるチャットを作る。
③東京の夜景画像から航空障害灯(ビルにある赤いライト)を数え、写真の採点などの画像処理の中で何かもうひとつ工夫を行う。

これらの課題は、単なる技術的なスキルの向上だけでなく、デザインや創意工夫を要求されるものです。佐藤トレーナーは、瞬発力を鍛えると同時に、自身の弱点を見つけることができると、この課題の意義を語ります。

それぞれのチームが短い時間で個性的な作品を作りました。せんだみつおゲームでは、参加人数やスピードを変えられる工夫や、ユーザー自身も参加できる仕組みが導入されました。面白い工夫としては、指名した人が恨まれないように匿名にするなど、セキュリティを厳密にする取り組みもありました。

キャラチャットについては、語尾を変えるだけでなく、入力された言葉を繰り返した後にキャラに合った言葉を付け加える形にするなどのアイデアがありました。今後の実装予定として、吹き出しのデザインをキャラクターに合わせたり、フォントを変えたりしたいと語るチームもありました。自らも作品作りに参加したアシスタントは、「くだらないことでも、会話のきっかけになるから、思いっきりふざけて良い」と語ります。

コースワークの後、北條トレーナーによる「法律と倫理」では、刑事(不正アクセス)と民事について講義が行われました。前半は不正アクセス禁止法の内容が解説され、後半には園田トレーナーとのパネルディスカッションが行われました。不正アクセスについての深い議論が交わされ、トレーニーたちの理解が深まりました。

2カ月後に向けて交流・相談、そしてクロージングへ

4人1グループで25分ずつの交流の時間が2回設けられました。トレーニーに配布されたそれぞれの名刺を交換したり、自分のコースで行った活動内容の共有など、この3日間を振り返りました。グループはコースもまたいで設定されているため、「〇〇コースって、こんな感じ」とか、「△△コースってどうなの?」といった話題も盛んな様子でした。交流を眺めていた横山トレーナーは、「自分とは違うコース、違うテーマでの開発を手掛けている人とも、積極的に交流してほしくてこういうコーナーを設けているんだけれど、特に今年は、皆積極的に自分から話しに行ってくれているようで嬉しい」と語っていました。

佳山トレーナーからのサプライズ!

今回掲示されていたマンダラートについては、遊座広太郎さん(思索駆動コース)、羽持涼花さん(学習駆動コース・社会実装ゼミ)、有賀菜摘さん(学習駆動コース・坂井ゼミ)、山名有希人さん(思索駆動コース)が全員のマンダラートに付箋を貼ってコメントを残してくれたということで、佳山トレーナーが特別にプレゼントを用意しました。

クロージングセッションでは、横山トレーナーが他のプログラミングイベントとの違いについて語りました。「ここではゴールを決めずにやってほしい」というメッセージはトレーニーたちにとって大きな励みとなりました。

次回のイベントは2ヶ月後、これまたオフラインで行われる予定です。それまでの間も、アシスタントによるオンラインでの交流の時間が企画されています。次回は初めてのポスター発表にもチャレンジする予定です。トレーニーたちは、新たなアイデアと創造力を駆使して、どのような成果を見せてくれるのか今から楽しみです。この3日間を通じて、たくさんのことを学び、交流を深めることができました。自分が取り組むべきテーマにも向き合えたことと思います。自由な発想と創造力を大切にしながら、自分自身の可能性をどこまで広げていくことできるでしょうか。次回のイベントがますます楽しみです。

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