SecHack365 2020 園田レポート04

SecHack365 2020 / Sonoda Report 04 - 3rd EventWeek2020.12.22

SecHack365-2020園田レポート04
情報通信研究機構ナショナルサイバートレーニングセンター長の園田道夫が、全編オンラインとなった2020年度のSecHack365を詳細にレポートします。企画意図や目的、実施してみて気づいたことなど、盛り沢山な内容でお送りします。
園田 道夫 詳細プロフィール

動画制作

この回の大きな目的は中間発表です。第二回イベントウィークの中の最初のイベントデイでテーマの共有会というのを開催し、複数グループに分かれて小規模ながら「発表」は体験しました。これを一気に全員向けに拡げます。

SecHack365 Returns トレーニーが事前に作成した動画リスト

ここでひとつ仕掛けをしました。テーマの共有会ではライブで発表してもらいましたが、今回は事前に動画を作成してもらいました。最終的な成果物の発表形態として動画というものを意識してもらう、という意味合いもあります。動画制作には特に制約を設けず、編集等何でも有りな感じでやってもらいました。何でも有りと明示的にアナウンスはしませんでしたが(笑)。さらに1.25倍速再生というのを指定できるようにしました。

これまでビデオ制作の機会は第二回に宿題という形で設けていました。しかし、今回のできあがりを見ると動画としての完成度はまだまだで、さらに個人間、グループ間で出来には差がありました。喋りの差、映像の差、プレゼンテーション資料の作りの差。その差が個性の範疇なら良いのですが、それ以前にクオリティが低いと言わざるをえない部分もありました。他人の動画を見ると急速に進歩すると踏んではいますが、いずれにしても精進は必要でしょう。

そんな中なぜ1.25倍速なんてことを始めたのか。

何の工夫も無く編集も無しのお喋り動画が30分もあったとして、最後まで見続けることができる人はどのくらい居るでしょうか。人々に飽きられずに最後まで見られる動画というのは、編集などでかなり冗長さを削ってあるものです。筆者園田は過去テレビのトークバラエティに出演しましたが、15分くらいの放送用に40分くらい撮影しバカウケ中のバカウケの最も良いところだけつまんでつなぎ合わせていました。だからこそテンションの高さを維持できるわけですし、最後まで見てもらえるわけです。人気Youtuberの動画もおそらくは大きな手間をかけて編集しているはずで、それこそ極限まで冗長さが削げ落とされているのです。しかし、限られた時間の中で編集技術を一から身に付けるというのは現実的ではありません。なので1.25倍速再生なのです。

1.25倍速についての反応は賛否ありました。確かに、わかりにくい、聞き取りにくい、と言われても仕方の無いクオリティのものがあったのは否定できません。ほとんどの人がやったことが無いことなので、最初のクオリティが高くないのは有る程度仕方の無いことです。しかし、動画というメディアの冗長さが常に気になり、完成度が高いプレゼンテーションが多いTEDであっても1.25倍以上の再生速度で視聴することが多い筆者園田としては、それに耐える喋りと動画を制作する能力をつけてほしいと思っているので、もう少しこのトライを続けて見たいと考えています(とはいえ反対意見が多かったら止めるかもしれませんが(笑))。高速再生に耐えうる動画を作れるようになった暁には、喋りも構成も資料作りもその技術と品質は大きく向上しているはずです。

今回一人だけ動画に字幕をつけてきたトレーニーが居ましたが、これも動画を配信する時代においては良い工夫だと思います。マイクやカメラ、そして使用するソフトウエアやパソコンの性能というものに加え、ローカルネットワークから使う回線、プロバイダーの提供サービスなどの通信品質というものが、ネットでの配信のクオリティには大きく影響します。通信品質の場合、送信側・受信側のご家庭のネットワークの性能=ラストワンマイルがボトルネックになることがあるので、途中の回線やネットワーク環境、状況が良いのにも関わらず配信途中映像や音声が途切れたりすることも珍しくありません。筆者園田自身、今回あまり通信状況が良くない環境で視聴してたこともあって、音声が途切れたときに字幕があることのありがたみを実感しました。テレビのバラエティパターンで強調セリフに字幕=しかし強調だらけ、みたいに連発されると煩雑な印象になってしまいますが、理解の補助、聞き取りにくさの代替としての字幕はとても役に立つと思います。

中間発表の進行

というわけで今回の発表は事前収録動画を流す形にしました。そして、以前からちょいちょいトライしていた、自分が喋る動画を見ながらチャットベースでコメントや質問をもらい、それに自分でレスする、という形でフォローしてもらいました。

これまでにテーマ共有会として小グループで自分が作ろうと思っているもの、あるいは作ったものについてプレゼンテーションをする場はありましたが、全員に向けて「発表」するのは初です。目的はいつもコースワークやゼミで一緒に活動しているのとは違うメンツからフィードバックをもらうこと。さらに、他の人の発表を見ていろんな意味の刺激をもらうこと。トレーニーたちの感想を読む限り、両方で良いものを得られたようです。

発表を動画にした効果も確認できました。まず大きいのは緊張しなくて済んだこと。緊張しなかったので他人の発表を冷静に集中して視聴でき、得るものが大きかった。次にフィードバックへの良い効果。オフラインの発表で挙手して質問・コメントするのは心理的にかなり抵抗があるが、チャットだとものすごくカジュアルに書き込める。レスする発表者本人も緊張していないのでいつもの調子でサクサク反応できる。非同期の書き込みだから時間切れを気にしなくても良いし、メモっておいてあとで書き込むこともできる。そしてそれらの記録がすべてログとして残るのも大きかった。こういう感想が聞かれました。

大げさに言えばオフラインの場でライブで発表して、挙手によって質問・コメントをするというやり方の、効率が悪いところや心理的に障壁になるところを一気に解消できたとすら思えます。ライブ発表の場数を踏む機会を失ったとは言えますが、代わりに得られたメリットは大きなものがありました。

惜しかったのはチャットに使ったシステムが途中かなり重くなってしまう場面があったことです。チャットに慣れている人間にとっては、いまどきのチャットシステムの状態が良いときの反応速度ですら物足りないのではないかと考えていますが、ではシステムが重たくなってしまった場合はどうなのか。他に通信ルートが無い場合はもうその遅いシステムを使い続けるしか無いわけですが、遅いときは短レスがどうしても増えてきます。言い換えるとシステムに引っ張られて伝達情報量が減ってしまうわけです。このあたり、もっともっと質の良い、あるいは情報量の多いやり取りをサクサクできるようにしておきたい。

そして最大の課題はやはり動画のクオリティです。前述しましたが、喋りも音質も画質も構成も資料の中身も、そして作っているもの、研究しているものそのものもまだまだ改良できますし、改良の余地はたくさんあります。トレーニーたちも他の人の発表を見たりフィードバックを読んだりして経験不足・技術不足・準備不足を痛感したようなので、今後はすべての面のクオリティが大きく向上すると期待しています。

中間発表を終えて

SecHack365は今年40数名のトレーニーが参加していますが、全プロジェクト40弱の発表を1日でやろうとすると、ひとつ5分としても朝から夜までになってしまいます。実際当日のスケジュールは10時半開始で途中1時間のランチタイムを挟んで終わりが17時過ぎになりました。毎年同じような量を見ているのですが、トレーナーから「今年は例年より疲労しなかった」という声が多く出ていました。

このことはいろいろなことを示唆していると感じています。
検証も何もしていないので仮説に過ぎませんが、以下にその要因として考えられることを挙げてみます。

  • コミュニケーションにおいてオフラインよりもオンラインの方が単位時間当たりに伝達可能な情報量が少ない
  • 一カ所に集合しての発表会(イベント)の場合、休憩時間も含めたすべての時間が刺激的で知的興味を惹くコミュニケーションの機会となりうるが、オンラインなのでそれらの機会がほとんど失われている
  • ほとんどの場合座ったままで集合したときのように動き回らない(肉体的疲労)

この中でも特に、「コミュニケーションにおいてオフラインよりもオンラインの方が単位時間当たりに伝達可能な情報量が少ない」という点が気になります。今回事前収録動画+チャットという形にして、伝達可能情報量という面では改良できたと思っていますし、緊張回避、チャットの効用などで質的な改良もできたと思っていますが、視聴側の疲労が少ないということは、まだ足りない、ということかもしれません。しっかり分析して改良していきたいと思っていますが、仕組みを改良すると人間の側も適応してもらう必要があったりします。どこまで適応してもらうのか、人間に過大な苦労を強いないように配慮しつつ検討すべきところだと認識しています。

そしてもうひとつ、「オフラインでは休憩時間も含めたすべての時間が刺激的で知的興味を惹くコミュニケーションの機会となりうる」。これについてもひとつ工夫をしました。新しいバージョンになって管理側の使い勝手が飛躍的に向上したZoomのブレイクアウトルーム機能を用いて、休憩時間は自由に交流してもらうことにしました。オフラインのようにトレーナーが混ざるところまでは行けませんでしたが、トレーニー同士の貴重な雑談タイムとなったようです。こういう事態になってみると、何気ない雑談の重要さを痛感しますが、今回ようやくそのあたりを実装できたと思っています。今年のトレーニーたちは、自主的に「トレーニーを囲む会」という企画を立てて頻繁に開催して交流を深めてくれていますが、それらも含めて同じメンツ同士にならず、もっと全方位で交流(雑談)できるような仕掛けをしていきたいと思っています。

公開済みのイベントレポート(sonoda_report03)で触れましたが、9月末に開催したオンラインのSecHack365 2019年度成果発表会の中で、トレーナーである大阪大学の猪俣先生、実行委員である高知高専の竹迫さん、世界のオンラインワークショップを多数受講されたLAC社の北原さん、そしてオンラインでの授業や講義という場面で多くの野心的な試みをなされている専修大学の上平先生とともにパネルディスカッションをしました。

イベントレポート イベントレポート

その中で、北欧で1970年代に生じたCo-Designという概念に基づく、オープンでクリエイティブなコラボレーションを研究されている上平先生が日々実験されているさまざまな場作りとしてオンラインゲームのマインクラフトを使った事例や、Google Meet+discordというライブ+非同期のチャットによる日常の講義の事例、竹迫さんにご紹介いただいた東京大学のVRの事例などを聞くと、形やシステムを変えて試す余地はまだまだありそうです。
(パネルの動画はこちらで公開しています)

イベントデイのみならずBoFやゼミなど、あらゆる時間的集合の機会を使って少しでも濃密なオフライン集合回に近づけるようにトライしていきたいと思います。

レポートの一覧へ

お問い合わせContact