SecHack365 2020 園田レポート02

SecHack365 2020 / Sonoda Report 02 - 2nd EventWeek2020.11.13

SecHack365-2020園田レポート02
情報通信研究機構ナショナルサイバートレーニングセンター長の園田道夫が、全編オンラインとなった2020年度のSecHack365を詳細にレポートします。企画意図や目的、実施してみて気づいたことなど、盛り沢山な内容でお送りします。
園田 道夫 詳細プロフィール

各コースの現在地

前回レポートは取材色が濃いものでしたが、今回は思索っぽく。

第二回のイベントウィークは8月16日~9月6日で、イベントデイは8月23日と9月6日の二回です。導入部が終わったこの期間は、各コースの動きの差が目立ってくる時期です。

例えば作りたいモノがはっきりしている「開発駆動コース」は実装方法やセキュリティ面の検討を進めます。一方「学習駆動コース」は文字通り学びながらものづくりをしていくアプローチなので、目標のために何を学ぶのか、学ぶ必要があるものは何かを見定め、知見と意識を拡げながら進めていきます。「研究駆動コース」は「学習駆動コース」とアプローチがある意味似ていて、目標はありつつもこの時期はサーベイをしまくりながら助言をもらいつつ進めて行きます。また、「表現駆動コース」はグループでアイディアを出し、整理して発表というループを繰り返しながら進めて行きますが、1年の中でそのループを何度か繰り返す、その途中です。そして「思索駆動コース」は自分が抱く問題意識と向き合いながら検討と議論(議論の方法や形態はさまざま)を繰り返しますが、検討の広さも深さも人それぞれという状態です。「思索駆動コース」に限ったことではありませんが、全体を通してもこの時期は進み方のバラツキが大きい時期です。

そもそもSecHack365というプログラムは個人差が大きくなるものなのです。

前述したコース毎の進捗も、コース内において足並みが揃っているわけではありません。

現場の要請からコース制を採用したのはSecHack365の二年目、2018年度からです。
最初は全員が同じ講義を受け、同じ形態の活動をしていたのですが、既に初年度の途中にはさまざまな類型が混在していることに気づかされていました。わかりやすく異なっていたのは作りたいモノの解像度や輪郭ですが、それをはっきりさせていくプロセスもアプローチも目指す分野や成果物によって大きく違うことも見えて来ました。最も手を掛けるのならば個別指導ということになりますが、使えるコストやリソースは当然有限ですし、指導効率を考えると類型ベースでグループ化してブレは吸収、という形が良さそうに思えたので、類型をクラスタ化して「コース」としました。

現在のコース概要は <こちら

オンラインオンリーのSecHack365

そのコース制がそろそろこなれてきたかなという4年目になって新型コロナ。そして強制オンライン。

これまでオンラインの指導というかコミュニケーションは、それこそ毎日のようにチャットで会話したり、ゼミやったり、いろいろやってきていました。ただ、映像+音声によるライブの対話はそれほど頻繁ではありませんでした。時間調整が必要ですし、調整しても出席できない人が出てしまったり、大変な仕事量になってしまうのが見えてましたし、オフラインの集合回があるのでそこまで需要が高くなかったとも言えます。ある意味オフラインの集合回に「依存」してたとも言えますね。

トレーナーによるオンラインのライブセッション トレーナーによるオンラインのライブセッション

オフラインが当たり前の世界では想像もしなかった視点を強制されてみると、オンラインコミュニケーションの役割について、分析や整理が足りなかったというのが見えて来ました。コロナ禍がおさまってくるとおそらく「ハイブリッド」という言葉が跋扈し始めるでしょう(笑)。SecHack365は最初からハイブリッドだったわけですが、共通要素を多めに配するオフラインの集合回に対しオンライン部分は各コースお任せ、という少しアバウトな棲み分けになっていました。

オフラインの集合回では全体向け講義や全体での活動、発表や議論が時間の多くを占めています。その中で講義が一番動画コンテンツにしやすそうに見えます。講義を分解してみるとインプットオンリーになる時間とインタラクティブに進める時間という構成になります。そしてインプット時間は事前に動画を作成しておき、当日はそれを流す、ということもできるわけです。オフラインのようにインプット時間とインタラクティブ時間を混然として実施できるのなら相乗効果を期待できますが、オンラインで同じようにやるとインタラクティブ時間の冗長さに引きずられて情報伝達効率が悪化してしまい、デメリットが目立つようになります。

そもそもオンラインでは通信品質、より具体的には手元に来る映像と音声の品質によってコミュニケーション自体がかなり冗長になるので、情報伝達効率を上げる工夫が必要だと感じます。混在していたインプット時間とインタラクティブ時間をそれぞれ集約する、というのもそのひとつですが、集約すると事前に動画を作成しておいてそれを流すというような形を採用しやすくなり(細切れの動画をたくさん作ることも考えられますが、インタラクティブな部分と絡めて考えるとなると膨大な手間がかかります)、流す傍らで動画出演者本人がチャットでQ&Aを行うことも可能になってきます。そもそも映画やスポーツを見ながら、どうかすると学校の授業や講義を受けながら「実況」していたりするのだから(笑)そういう形のコミュニケーションにもすぐ習熟するでしょう。実際この同時本人チャット形式は、事前作成動画の場合ライブで喋ったあとのQ&Aよりもフィードバックを得やすい面がありますし、やりようによっては盛り上がってフィードバックを引き出しやすくなるということもさまざま実施してみてわかってきました。

ライブセッションの動画コンテンツ ライブセッションの動画コンテンツ

そして動画はyoutubeやvimeoならば1.25倍とか1.5倍の再生が可能です。チャットの併用と同じく単位時間あたりの伝達情報量を増やせますし、音声による対話の時間で冗長になってしまう分を取り返すという意味でも良さそうです。

講演や発表そのものの形と効果についても効率面から整理が進みました。例えば法律に関する領域の話です。前提知識の個人差が激しく、平均的には用語に慣れない、知らない人が多い領域なので、専門家に話を聞く場合はインタープリターが必要になってきます。したがって専門家一人に任せて喋ってもらうよりも、インタープリター役と対話的に進めるか、いっそライブセッションにしてしまう方が準備の負担も最小限で済みますし、内容も染みこみやすくなります。このあたりはオンラインオンリーになる以前から見えていた部分ですが、オフラインである意味ごちゃっと丸めてやっていたところを分析分解して、事前作成動画に知識をインプットする部分を任せ、ライブセッション+並列Q&Aで視聴者の代行質問的に専門家からわかりやすい言い換えや比喩的表現を引き出す、というように、オンラインの冗長さの影響を極小化する形を何種類か見出せたと思っています。

少し先の話ですが、このように第一回第二回とイベントウィーク、イベントデイを開催してきて整理分析してきた考え方を、オフライン開催が可能になったとして仮想的に適用すると、うまくすれば負担減+効率化に繋げることができると考えています。これまでやってきたハイブリッドの中身を少しだけ進化させることができそうです。
いつそうなるのかはまだわかりませんが、提供の可能性があるコンテンツをオンラインオンリーの流れの中で*ついでに*準備しておきたいところです。

「オンライン」の特性と使い方

そしてSecHack365の目標類型が異なり、適正進捗も異なる各コースのコースワークに、見えて来たオンラインの使い方についてどう反映させていけば良いのか。それについては今こんなことを考えています。

全コースに共通するインプットオンリーの割合が多いコンテンツは、事前作成動画やライブセッションとそのアーカイブ動画という形で提供し、Q&Aなどのインタラクティブな部分は同時もしくは非同期のチャット等に乗せて対応する。同様な疑問を抱えるトレーニーが多いときは別途動画コンテンツを作成していく。アイディアの育て方、転がし方、たたみ方などの相談要望が多くなったとしたら、ベーシックな部分はライブセッションで見せ、個別性が高い相談はカテゴライズが可能ならBoF(Birds of a Feather)など議論の場、QAの場を設定して吸収し、共通要素が極小な部分についての相談は個別に行う。技術要素に関しても同様。

さらに、トレーニーたちのテーマ群とも直接マッチしないような、それでいて考え方など抽象的なレイヤで参考になるような、あるいは刺激になるような講演プログラムを動画ベースで組む。可能ならライブセッション、不可能なら録画で。QAのルートもZoomのチャットだけでなく、Sli.do、discord、Slackなどから記録性なども考慮して適切なものを選び、リアルタイム、もしくは非同期にて実施する。
まだ工夫開拓の余地はありそうですが、今できるのはこんなところでしょうか。

そして、この「できること」を読んでいただくと、オンラインオンリーのSecHack365というのがどうかするとオフラインの集合回をやっていた、ハイブリッドだった昨年度以上に大変であることがわかっていただけるかもしれません。
全国に散らばっている人たちが、全員で同じ場所に集まるための物理的な移動というのは確かに、時間もかかるし大変なことですが、その分オンラインよりもかなり効率の良いコミュニケーションをベースに密度が濃い時間を共有できるわけです。物理的な移動が無くなる代わりにコミュニケーションの効率と密度を大きく減殺されてしまったので、それを穴埋めする必要がある。穴埋めできるのはコンテンツメーカーしか居ません。その一方で物理的な移動はおカネさえ払えばプロに任せることができる。コンテンツメーカーが穴埋めに奔走し、穴埋めのためのツールやコンテンツをゼロから積み上げて許容範囲内にまで負荷を下げられるのが早いか、疲弊するのが早いか(笑)。
新型コロナ禍の先が見えない現状にそんな危惧さえ抱いてしまいます。

理想は改良型オンラインとオフラインの組み合わせによる進化形ハイブリット形態ですが、そのときが来るまではもがきながらさまざまな新作コンテンツ、新作動画を作り続けるしか無さそうです。

レポートの一覧へ

お問い合わせContact