SecHack365 2018 第6章 沖縄回 レポート

SecHack365 2018 第6章 沖縄回2019.3.1

みなさんこんにちは、NICTの鎌田です。2月1日から2月3日にかけて、SecHack365 沖縄回が開催されました。
「沖縄?いいね!」と、これを読まれている方は思われるかもしれません。そしてもちろんのこと、U25のトレーニー達は初めてこの土地を踏むという人も居ました。それはもう、ウキウキです。ところが、ウキウキだけではありません、実のところ沖縄集合回は最終発表会ということで、作品づくりの集大成となる発表にウェイトを置くため濃密なスケジュールで組まれており、「遊び」は1ビットも感じられません。なぜこの沖縄という土地で発表に濃密にならざるを得なかったのか。
そして、感動の笑いあり涙ありで過ごした彼らの模様をレポートしたいと思います。

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沖縄回のメインは・・・3月に発表できる、優秀チームの選抜

沖縄へ降り立つと、気温は20度越えです。本土は10度前後、北海道などのマイナス気温のところから来るトレーニーも居ます。ぶ厚いコートを片手に移動。会場に到着するやいなや、当日発表するトレーニー達はスムーズに進行するためにPCとプロジェクタの接続チェックが始めたり、スライドチェックやデモの確認をしました。

初日の冒頭は沖縄回の手配を担当したトレーナーの金濱さん・池田さんから沖縄回の説明がありました。沖縄回は、全員が1年通して作り上げた作品の最後の発表の機会であるという位置付けになっています。大いに作品の自慢をして下さいとエールがありました。DAY1、DAY2は2日連続、朝9時から夜の20時まで、40もある作品発表で埋め尽くされています。

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そしてお馴染みトレーナー横山さんからも詳細の説明がありました。まずは進行のお話。1チーム発表の持ち時間は20分。15分以内にプレゼンテーションを終えて、残りの5分は質疑タイムです。
みんなが全員の発表を聞きます。発表者の心構えとして、自信を持って前向きに説明すること。できたことが伝わるように説明するようにとのこと。
また一方、発表を聞く側は人の発表を聞いてみて、自分なりに考えること、足りなかったことはないかを自分自身の視点で見て考え、発表者に良いフィードバックをするようにしましょう。と、前置きがありました。

今年は昨年に比べ濃密なスケジュールで発表が組まれました。昨年度は複数名で成るプロジェクトが多かったので、沖縄で発表した件数は今年ほど多くはありませんでした。
今年は2日連続、夜の20時ぐらいまで、熱気のある発表が繰り広げられました。
トレーナー達による作品審査の基準は、「表現力」「技術力」「アイデア」の3つから成る軸で評価されます。高評価を得る“優秀”修了者は、3月の成果発表会で大勢の前でプレゼン発表することができます。
沖縄回に来た全員がこれを目指しているので、会場はものすごい熱気です。
誰も彼も彼女も自分を信じて、この日まで頑張ったのです。

初回の5月から今回まで、約8ヶ月ありました。アイデアを繰り返し練って、アウトプットする。その作品を見てもらうことと、フィードバックをもらいそれを取り入れることを繰り返して、みんな大きく成長しました。

タイトル一挙公開

1 小山 凌弥 心を見守るアプリ"tete-AR-tete"
2 秋田 賢/又吉 直哉 We pray for harmonic SNS communication -見えない情報の可視化-
3 荒川 聖悟 分散化ストレージサービスAtomsの開発
4 川田 恵氏 コンピューターシステムの再構築
5 小寺 建輝 強化学習によるAmerican Fuzzy Lop の改良
6 西田 雄亮 環境設定を判断材料とする回避型マルウェアの検知
7 伴 侑弥 悪性ログの特徴を抽出し可視化する運用者育成支援ツール
8 藤田 優貴 NFCとWebUSBを用いたWebアプリ用認証システム
9 金子 慧海/小西 達也/前田 章吾 IoT Manack
10 古川 菜摘 プログラミングの見えない課題を可視化する-デバッグ支援ツールHIDE-
11 宮川 慎也 サービスにおける利用者の不安軽減手法
12 臼崎 翔太郎/片山 源太郎/平田 秀平/安浪 涼花 安心・安全なSNS
13 元内 柊也 管理された関数実行基盤のマルチテナントアーキテクチャ及び高集積に関する開発
14 山本 悠介 CanSatをはじめよう
15 石綿 優太郎 シンプルでセキュアな認証OMARTHの開発
16 大杉 浩太郎 EntranceUI: Nmap のユーザビリティ改善ラッパー
17 桑原 翼/柴﨑 研冶 マルウェアの解析補助
18 白倉 大河 HTTPリクエストの記録・解析サービスのトップを狙う!reqhack
19 宮口 誠 QEMUによる自動バイナリ防御機構の開発
20 小松 聖矢 ダークネットにおける深層学習を用いたボットネット協調動作の解析
21 志渡澤 優樹 悪と多様性について
22 竹内 和貴 言語統一のためのTepu言語
23 三谷 日姫 TOMMY~transform of memory~
24 宮川 大星 ExGDB ~GDBを用いた動的なバイナリ解析の効率化~
25 森 幹太 Pythonで作って学ぶ情報セキュリティ
26 坂田 尚慶 セキュリティ体操
27 宇地原 大智 Nim言語のWebフレームワーク "Dach" 開発
28 山下 陽生 機械音声人間化プロジェクト
29 赤間 滉星 Buckler
30 小谷 優空 ReRethink - プログラミング教育プラットフォーム
31 森岡 優太 STLECK ~一般の方が受けるセキュリティ被害を減らすための思索~
32 東 佑輝 低レイヤーから学べるC++入門本の執筆
33 井上 勢大 ツールチェインの連携によるセキュリティ機能の開発
34 青池 優 囮ファイルによるdeceptionシステム
35 朱 義文 セキュリティ機能を持つ組込み向けハイパーバイザの開発
36 田村 来希 CPUに対するセキュリティ機能追加の提案
37 宇佐見 大希 IoT向け言語の開発
38 三橋 優希 家事の情報共有サービス UTIPS
39 窪田 靖之 インターネットデビューのためのフィルタリング
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トレーナー会議の裏側レポ

20時を過ぎると、トレーナー達は別の会議室に移動します。みんな頭をフル回転させて発表を聞いてコメントをしていたので、疲れているはずなのに、疲れた表情を見せません。むしろがんばった彼らから、不思議なパワーをもらったかのような楽しそうな表情です。
トレーナー達は各自が評価した点を合算し、総合点としてランキングし、6チームを選考します。
技術力が飛び抜けていた人、アイデアでみんなを驚かせた人、作品そのものの表現力に長けていたチーム、僅差で選考から外れてしまった人や、チームを、なんとか発表の枠に入れることはできないかと、たくさん議論しました。
発表の枠は限られているので、そこにイレギュラーな判断があってよいのか、ルールが正しいのか、そもそも論からの大議論です。選考に漏れてしまうことがまるで大事件のようで、トレーナー全員が身を切るような思いになっていました。トレーニー達と向き合ったからこそ、そこへの情熱はそれぞれに揺るがないものがあったのでしょう。
夜が更ける中、みんな時間を忘れ、答えのない議論が繰り広げられました。

当日優秀者発表

3日目の朝、みんなが発表を終え、すがすがしい顔をしています。
トレーナー笠間氏によるStarWars風のビデオで、3月に発表できる優秀者とチームが発表されました。
まるで映画のエンドロールで、選出された優秀者の名前とタイトルが表示されていきます。

歓声が湧き、ガッツポーズで飛び跳ねる人や、握手をする人、涙を流す人もいました。
大きな拍手は、なかなか鳴り止みませんでした。

技術を愛してもいいけど、溺れてはいけない

ゲスト講演には沖縄オープンラボラトリの山崎里仁さんをお招きしました。山崎さんはもともと実験物理を専攻されていて、その研究室で利用していたルータ機器のメンテナンスをすることがきっかけでインターネットの世界に入ったそうです。その昔、日本の国全体で研究費が削られ、学者達の職が危険になるなどの国際政治の動きがあったのだそう。そんな時代背景の影響を受けて、個人向けISPサービス事業を立ち上げることになったのだとか。事業家の目線から、その経緯やその当時の苦労話など、パワポ資料なしでご紹介いただきました。
大きなメッセージとして、すばらしい開発者や研究者は国外にもたくさん居るので、世界に羽ばたいてほしいと強く期待を込めて述べられていました。また、若い時に「良き師」と出会えたこと、それが人生の大事な鍵であったということ。SecHack365のトレーニーたちがすでにこの場所で「師」に出会えている、その縁を大切にしてほしいとのことでした。そして、セキュリティを学ぶうえで「ネットワークの基礎」をきちんと学ぶことも重要で、すでに学習した人でも一度学習を見直して、もう一度やり直しで構わないので基礎を学ぶことを強く勧められていました。
今と30年前では環境が大きく違います。しかし、人生を技術者として歩んでいくために必要なものは、今も昔も変わらないかもしれません。

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Q : インターネットの世界を長年見てきたと思うのですが、ネットの時代が動いたと感じた時はいつですか?
A : 25年か30年ぐらいこの業界にいますが、ネットが商用化した時ですね。具体的にいうと、ISPからキャリアがサービスの一つになった時です。今は「internet = 5G」になろうとしています。

Q : 尊敬する技術者はいますか?
A : たくさんいるけど、日本人で誰かといったら「本田宗一郎さん」ですね、お会いしたこともあります。
そして本田さんから、もらった言葉ですが、
「技術を愛してもいいけど、その愛に溺れてはいけない。それは飼い慣らさないといけない」
と教えてもらいました。この言葉は、今も大事にしています。

山崎さん、ありがとうございました。

評価ってなんだろう

横山先生から最後の問いかけがありました。
「二人以上集まれば始まる「評価」、これってなんだろう」

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「作る→見せる→受け取る。これを繰り返していったことをみんな1年で経験しました。習慣化を身につけました。
じゃあ次は何を作ろうか。誰に評価してもらいたいか、次にやることはたくさんあります。
今回つくったものは自分のためのものでしょうか。次に作るものは誰かのためでしょうか。
大事にしてもらいたいことは、もらったものに感謝をする、借りて返せる人になることです。
ここで得たことは誰に返してもいいのだけど、少しだけSecHack365にも返してほしい」

そうですね、また来年度に新しいトレーニーが選ばれるんだもの。
成果発表会を終え、無事に修了したら胸を張って「修了生」と名乗ることができます。
SecHack365をいろんな人に知ってもらいたいですから、ブログを書いたり、イベントがあったら参加してもらったり。ここで経験したことや、得た知恵を、是非次に繋げてほしいですね。
そうしたらきっと、少しだけ、社会にイノベーションを起こすことに、社会に貢献することに、何か繋がるのではないでしょうか。

沖縄の聖地へ

最終日は成果発表会で良い発表ができるようにと、パワースポットである斎場御嶽(せいふぁーうたき)というところに行きました。
斎場御嶽は、琉球王国時代の最高聖地。世界遺産でもあります。昔は女性の神官しか入れない男子禁制のところで、男性が入る場合は女性の衣装を着て入っていたのだとか。
観光客が増えてマナーが悪い人が多いと、また女性しか入れないところにするかもしれないと、沖縄県南城市が本気で議論しているのだそう。ちなみに、SecHack365のトレーニー達は男性が多いのですが、みんなお行儀が良かったですので安心してください。小ネタですが、沖縄県でしか見れない絶滅危惧種の「シリケンイモリ」がとても可愛らしかったです。

(動画撮影:トレーニーの秋田さん)

お参り効果で、みんないい成果発表ができるかな?
3月8日の成果発表会、今年から一般の方もご入場できますので、是非ご来場ください。

知念岬で集合写真

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絶景の前で集合写真。(※海を見に行ってしまったチームが居るので、全員ではありません)

「SecHack365トレーナーから、愛のメッセージ!」
佐藤です。 ふと手に取って読み出した本、読書の学校別冊養老孟司特別授業で、養老孟司さんが語られていたことに、「バカの壁は、私は世の中に感じたズレを書きました。」という件があります。生きていると社会とのズレが発生するわけです。いろいろなところで。インプットが多いほど、社会とのズレが大きくなるのではないかと思います。私、研究を行うときは、自分と社会とのズレを埋めるべく工学的な知識を使って問題を解決しています。 うん。なるほど。そうそう。
ほぼ一年間かけて、トレーニーのみなさんも自分との社会とのズレがあるために創るというズレの調整作業をしてきたんだな。
なんか、この表現、私なりに腑に落ちました。
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